晩秋に、鮮やかな赤い果実をつけるサルトリイバラ(猿捕茨)。根は生薬、葉は餅を包むのに利用されるなど、古来日本人の暮らしに馴染んできました。近頃では、ジグザグとした枝と赤い実が、クリスマスや正月飾りなどの花材として重宝されるようになりました。
「山で怖いはサルトリイバラ、里で怖いは人の口」
サルトリイバラは、サルトリイバラ科シオデ属の蔓性落葉低木です。中国、朝鮮半島、日本など東アジアに分布。北海道から九州、沖縄までの、日当たりのよい山野や丘陵に自生します。
葉は先端が尖った直径3~12㎝の円形あるいは卵形。明るい黄緑色で光沢があります。茎は硬く、節ごとに曲がりくねって育ちます。茎には托葉(たくよう)が変化した一対の細長い巻きひげがあり、さらに鉤(かぎ)爪のような鋭いトゲを持ちます。この巻きひげとトゲを使って他の植物に絡みつき、高さ2~3mほどにまで成長していきます。
和名の由来は「猿を捕る茨」で、茂みに追い込まれるとサルでも逃げられないということから。“イバラ(茨)”は、バラなど鋭いトゲのある低木類の総称です。
古くから山里で言い伝えられてきた諺(ことわざ)に、「山で怖いはサルトリイバラ、里で怖いは人の口」があります。里の噂話(人の口)も、山のサルトリイバラも、どちらも蔓延(はびこ)れば相当やっかいなもの。トゲはバラほどではなく数も少ないのですが、触れればチクリと痛く、衣服に絡み、薄手の雨具などは簡単に引き破られてしまいます。
解毒作用がある“毒消しの実”
サルトリイバラは雌雄異株(しゆういしゅ)で、雌株(めかぶ)には雌花(めばな)を、雄株(おかぶ)には雄花(おばな)を咲かせます。
花期は4~7月。葉の付け根から散形花序(さんけいかじょ)を出し、黄緑色の小さな花を球状に多くつけます。散形花序とは、花柄が放射状に広がり、それぞれの先端に一個ずつ花をつける咲き方のこと。花被片は6個、長さ約4mmの長楕円形で、上部はそり返ります。雄花には黄色い葯(やく)が、雌花には先端が三つに裂けた柱頭があります。
受粉した雌花は花後、直径1㎝ほどの球形の液果をつけ、10~11月になると鮮やかな朱赤色に熟します。果実酒やジャムにも適し、生食も可能。また解毒作用がある“毒消しの実”としても知られ、民間では古くから利用されてきました。
西日本の「柏餅」の葉はサルトリイバラ?
サルトリイバラの別名は「サンキライ(山帰来)」。山に捨てられた病人がこれを口にし、治癒して帰って来たことからなど、語源の由来には諸説あります。山の珍しい食べ物を包む葉を意味する「山奇粮(さんきろう)」が転訛したという説も。
薬効は根茎にあり、生薬名は「山帰来(さんきらい)」または「土茯苓(どぶくりょう)」。かつて日本では梅毒の治療に盛んに用いられました。ちなみに中国での「山帰来」「土茯苓」は同属別種のサルトリイバラの仲間を指します。
さて西日本を中心に、サルトリイバラは「サンキラ」と呼ばれ、ブナ科のカシワ(柏)やモクレン科ホオノキ(朴の木)と同じようにして、饅頭やお餅を包みます。端午の節句を祝う「柏餅」も、西日本ではサルトリイバラです。
地方名はマンジュッパ、ボタモチバラ、カシワなど豊富。サルトリイバラの葉はツヤも手触りも香りも好ましく、炊事に使う「炊し葉=かしは」にぴったりだったのでしょう。
花言葉は「不屈の精神」「元気になる」
サルトリイバラの花言葉は、いずれも生薬として利用されてきたことから生まれました。また、旺盛に蔓を伸ばして繁茂する性質の強さにもちなんでいるのでしょう。
サルトリイバラを詠んだ俳句には、次のようなものがあります。
作者は、昭和を代表する俳人、阿波野青畝(あわの・せいほ/1899~ 1992年)です。葉が落ちて枯れた蔓に、赤く艶やかな実だけが残るサルトリイバラ。黒髪かあるいは花器に挿され、まるで晩秋の凜とした空気が凝り、珠となったかのようです。「妹(いも)」とは、古語では妻や恋人、血縁の女性など身近で親しい女性を指す言葉。
これからくる寒い季節に向かって、小さな炎のようなサルトリイバラを飾る「妹」の心には、どのような思いが去来しているのでしょうか。
サルトリイバラ(猿捕茨)
学名: Smilax china
英名:China root
サルトリイバラ科シオデ属の蔓性落葉低木。中国、朝鮮半島、日本など東アジアに分布。北海道から九州、沖縄までの、日当たりのよい山野や丘陵に自生。雌雄異株で花期は4~7月。黄緑色の地味な花をつける。10~11月に朱赤色の液果が実る。クリスマスや年末年始を飾る花材として好まれる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
