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ふろふき大根

旬のもの 2026.01.09

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「ふろふき大根」についてのおはなしです。

土鍋の蓋が割れた。2合炊きの小さな土鍋だ。産後、お米を炊く時間もないだろうと思って電気炊飯器を買っておいた。しかし、土鍋で炊いたお米の美味しさが忘れられなくて、産後2ヶ月足らずで買い足したものだ。作家さんの仕事による一点もので、お洒落でお気に入りだったのに、手が滑って割ってしまった。
蓋がなくては米が炊けぬ。この小さな土鍋はどうしようかなぁと悩みながら、しばらく棚に眠らせていた。

ようやく育児の合間にふうっと息を抜けるようになった頃、立派な大根をいただいた。おでん大根といって、煮崩れしにくく、味染みが良いという。
それならば、まずはシンプルに炊いてみようと大根を手に取った。持ち上げると、皮の向こう側に満ちる水分が、ずっしりと手に伝わってくる。

大根を3センチ程度の円柱に切り分けると、しっとりとした真っ白な肌がのぞいた。皮を厚めに包丁で剥く。表面がカクカクしてしまって綺麗に剥けないあたり、まだ産後の頭で感覚が鈍っているなぁ…なんて苦笑いしてしまう。

あまり料理に時間がかけられないので、火が通りやすいよう、4等分のいちょう切りにする。さて、これをどの鍋で煮ようか?厚手の鋳物鍋もあるが、少し大きいな…と悩んでいると、例の土鍋を思い出した。あ、あの鍋なら丁度良い大きさかも。

切り分けた大根を土鍋に入れ、たっぷりの水を注ぐ。火にかけてしばらくすると、水面がふつふつと揺れ始めた。普通の鍋より、温まるのに時間がかかったなと思ったが、これも土鍋の良いところ。火加減を調節して、ことこと煮る。ゆらりと湯気が立ち上り、寒かった部屋が徐々に温まってきた。しばらくして、大根が透き通ってきたところで火を止めた。
火を止めても、土鍋の中のお湯がいつまでも踊っている。こんなに長く熱が伝わり続けるのかと驚いた。きっと大根は、土鍋を通して柔らかくなった火によって、気持ちよく、優しく柔らかくなっていったに違いない。しばらく私は、土鍋の中でことこと踊る大根をぼんやりと眺めていた。

味を整えた昆布だしに、湯がいた大根を静かに入れる。透明な大根は出汁を吸い込み、じゅわりじゅわりと更に柔らかくなっていく。煮汁が少し減り、大根の芯まで出汁の香りが染み込めば、火からおろし、しばし落ち着かせて完成だ。

少し深い皿に大根を煮崩れないように盛り付ける。その上に、自分の仕事の商品でもある柚子麹味噌をそっと乗せた。大根の湯気に乗って、ほのかに甘辛い香りが立ち上がる。
箸を入れれば、大根がほろりと崩れる。その柔らかさに思わず声が漏れた。こんなにみずみずしさを保ったままなのは、きっと土鍋がじっくり熱を伝えてくれたおかげだろう。噛めば出汁の奥深い旨味がじゅわっと広がる。味噌の甘みと、柚子の清々しい香りが溶け合う瞬間は、まさに至福だ。「あぁ、土鍋で炊く大根って最高…」心身共にじんわり温まり、慌ただしい育児の合間の、ほっとする時間だった。

蓋をなくした小さな土鍋は、今では我が家の「煮物名人」。今年の冬も、ふろふき大根はすでに作った。子どもも大好きなメニューのようだ。
これから寒さが本格的になる季節。冬の根菜をことこと炊く、優しくて静かな時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

写真提供:庄本彩美

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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