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スモモ

旬のもの 2026.03.18

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こんにちは。俳人の森乃おとです。

ソメイヨシノが満開となる頃、よく似た白い清楚な花を咲かせるのが、同じバラ科のスモモ(李)です。中国では古来、春を象徴する特別な花として愛でられ、わが国最古の史書『日本書紀』にもその名が記されています。和名の由来は「酸っぱい桃」。果実の形がモモに似ていて、酸味が強いことから名付けられました。

万葉集に詠まれた中国原産の果樹

スモモはバラ科サクラ属の落葉小高木。スモモ属に分類されることもあり、国や時代によって変化します。別名はニホンスモモ(日本李)。英語名はJapanese plumです。
中国の揚子江沿岸地方が原産地といわれ、日本には奈良時代に薬用・観賞用の果樹として渡来。同じ時代に成立した日本最古の和歌集『万葉集』には、「李」を詠んだ歌1首が収録されています。

我が園(その)の 李(すもも)の花か 庭に降る はだれのいまだ 残りたるかも/巻19・四一四〇

(現代語訳:わが庭の白いまだら模様は、スモモの花が散り敷いたものだろうか。それとも薄雪がまだ残っているのだろうか)

作者は大伴家持(おおとものやかもち/718頃~785年)。没落してゆく名門・大伴氏を率いる公卿・歌人で、万葉集の編者ともいわれます。

甘みと酸味が調和したジューシーな味わい

スモモの花期は3~4月、葉に先立って径2㎝ほどの白い5弁花を咲かせます。花弁の先端は丸みを帯び、ウメやアンズの花によく似ていますが、花柄が長いことが特徴です。
果期は一般的に6~7月。果実は約5㎝の球形で側面には溝があり、表面に毛はなくツルツルとしています。果皮は完熟すると鮮やかな紅色に染まり、甘みと酸味が調和したジューシーな味わいを楽しむことができます。

スモモが食用として本格的に普及するのは明治に入ってから。19世紀にアメリカで品種改良され、逆輸入する形で広く栽培されるようになりました。同属のヨーロッパ産のセイヨウスモモ(西洋李)の果実は卵形あるいは楕円形。果皮は紫がかった色合いをしています。果肉はスモモよりもしっかりとしていて、甘みが強いことが特徴です。

中国で愛されてきた「桃と李」

中国では、スモモは「五果(ごか)」と呼ばれる重要な果実の一つです。五果とは普通「李、杏(あんず)、棗(なつめ)、桃、栗」を指し、中でもスモモとモモは「桃李(とうり)」と並び称され、多くの詩や文章で讃えられてきました。

盛唐(712~765年)の詩人・李白(りはく/701~762年)が詠んだ「春夜宴桃李園序(春夜桃李の園に宴するの序)」は、名文として名高く、漢詩の授業でも多く取り上げられています。

また、「桃李(とうり)もの言わざれども、下(した)自(おのずか)ら蹊(みち)を成す」の慣用句も有名。出典は後漢の司馬遷(しばせん/前145?~前86?)が編纂(へんさん)した中国最初の歴史書『史記』です。

モモやスモモは黙っていても、花や果実を求めて人々が集まります。それと同じように徳があり立派な人の下には多くの人が集うため、自然に道ができるものだという例えです。
「李下の冠(かんむり)」という有名な成句もあります。「李下に冠を整(なお)さず」を略したもので、由来は古典詩の一形式である「古楽府(こがふ)」に収録された詩「君子行(くんしこう)」より。「スモモの木の下では果実を盗んだとの誤解を招くため、たとえ冠が曲っていても手を上げて直してはならない」の意です。

豊かに実った瓜(ウリ)の田にはむやみに足を踏み入れてはならないという、「瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず」と合わせて、人の疑いを招くような行為を戒める格言としてよく知られています。

花言葉は「誤解・困難」「甘い生活・幸福な日々」

少しネガティブな「誤解・困難」の花言葉は、「李下に冠を整さず」の故事に由来します。スモモがサクラと同時期に似ている花を咲かせ、見間違えられるためという説も。
一方で「甘い生活・幸福な日々」という素敵な花言葉もあります。春にたおやかな花を咲かせ、初夏にみずみずしい果実を実らせることから生まれました。季節の移ろいと自然の恵みへの感謝の思いが込められています。
さて現代俳人の仙田洋子(せんだ・ようこ)氏には、次のような作品があります。

花すもも 手をつながずに ゐるもよし

ただ傍にいるだけで、また言葉さえなくても、より深く互いの気持ちが通じ合うことがあります。愛情とは花がやがて実となるように、あえて触れずとも多少の酸味とともに甘やかに豊かに熟していくものなのでしょう。

スモモ(李)

学名: Prunus salicina
英名:Japanese plum

バラ科サクラ属(あるいはスモモ属)の落葉小高木。中国原産。花期は3~4月、葉に先立って径2㎝ほどの白い5弁花を咲かせる。花はウメやアンズ、サクラに似る。果期は6~7月。果実は約5㎝の球形で、表面に毛はなく滑らか。果皮は完熟すると鮮やかな紅色に染まる。別名はニホンスモモ。近縁種にセイヨウスモモがある。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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