今日の読み物

お買い物

読み物

特集

カート内の商品数:
0
お支払金額合計:
0円(税込)

ウツギ

旬のもの 2026.05.14

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

こんにちは。俳人の森乃おとです。

夏の訪れを告げるように、純白の花を多く集めて咲かせるのがウツギ(空木/卯木)です。別名は「ウノハナ(卯の花)」。かつては田畑や敷地の境界木として多く植えられ、万葉の時代から親しまれてきました。

卯月は「卯の花」が咲く季節

ウツギは、アジサイ科ウツギ属の落葉低木。北海道から九州まで、日当たりのよい野原や山林の縁、土手などで普通に見られます。朝鮮半島および中国にも分布。かつてはユキノシタ科に分類されていました。

樹高は1~ 2.5mほどで、よく分岐します。対生する葉は長さ4〜9cm。卵形あるいは楕円形で先端が尖り、縁には微細なギザギザ(鋸歯/きょし)があります。若葉の表面には、細かな毛が星形に集まって生えていて、ザラザラとした手触りです。

花期は4~6月。枝先に径10 ~15mmの白い5弁花を円錐状に多く集め、下向きに咲かせます。ちなみに、よく似た近縁種にヒメウツギがあり、花がやや小さめで樹高0.3~1.5mとコンパクト。管理しやすいため、庭木としてはウツギよりもよく利用されます。

和名の「空木」は、幹や枝の中心に髄(ずい)がなく、空洞になっていることに由来。旧暦4月である卯月(うづき)の頃に花を咲かせるため、「卯木」とも表記します。

卯月は、新暦では4月下旬から6月上旬の季節。「卯月に咲くから卯の花」ではなく、「卯の花が咲くから卯月」とも考えられていて、どちらにせよ風流なネーミングですね。
別名のウノハナは、「ウツギの花」の略です。豆腐のおからを「卯の花」とも呼びますが、おからの白くふわふわとした形状を、ウツギの花が咲いている様子に見立てたのだとか。

梅にウグイス、「卯の花」にホトトギス

さてこの季節になると、つい口ずさむのが小学校唱歌の『夏は来(き)ぬ』です。1896(明治29)年に発表され、作詞は歌人・佐々木信綱(ささき・のぶつな/1872~1963年)、作曲は小山作之助(こやま・さくのすけ/1864~1927年)。広く愛唱され、2007年には日本の歌百選に選出されました。

卯の花の/匂う垣根に/時鳥(ほととぎす)/早も来鳴(きな)きて/忍音(しのびね)もらす/夏は来ぬ

歌詞の一番では、ウツギの花が咲き出す頃、南国から日本に渡来するホトトギスが登場します。「忍音(しのびね)」とは、ホトトギスのまだ慣れない初音のこと。
梅とウグイスの取り合わせが春を象徴するように、古来、ウツギの花とホトトギスは、夏の訪れを告げる風物詩でした。『万葉集』にはウツギの花を詠んだ歌が24首収められていますが、そのうち18首がホトトギスとともに詠まれているほどです。

平安時代の清少納言の随筆『枕草子』では、ホトトギスの鳴き声を聞きに行った帰りに、ウツギの花の枝を折って牛車に飾って楽しむ話もあります。
ただしウツギの花には香りはなく、『夏は来ぬ』の歌詞中にある「卯の花匂う」は、白く美しい花が咲く様子を表現したものとされています。

花言葉は「古風」「秘密」「乙女の香り」

花言葉の「古風」は清楚な花の佇まいから生まれました。「秘密」は、幹や枝が空洞になっていて、外からでは中の状態がわからないことから。「乙女の香り」は、ウツギの花が咲く頃になると、「早乙女」と呼ばれる田植えをする女性の姿が多く見られたことにちなみます。

さて、6月上旬の本格的な梅雨入り前、ウツギの花が盛りとなる4月末から5月中旬にかけて、数日から一週間ほど雨が続くことがあります。これを「走り梅雨」「迎え梅雨」といいますが、「卯の花腐し(うのはなくたし)」という趣のある別名でも知られています。「卯の花降(くだ)し」とも。
ウヅキの花弁を散らせ、朽ちさせてしまうほどに降り続ける長雨は、いっそう花の清浄なる白さと儚さを際立たせます。

降り出して まこと卯の花 腐(くた)しかな――稲畑汀子(いなはた・ていこ/ 1931~2022年)

俳人・高浜虚子の孫で、俳誌「ホトトギス」主宰を継承した稲畑汀子の一句です。かつて「卯月八日」には、ウツギの花や枝などを飾って祀り、山の神を田に迎えてその年の豊作を祈る風習がありました。民俗学者の折口信夫(おりくち・しのぶ/1887~1953年)は、「ウツギが長く咲いている年は豊作、花が少ないか早く散る年は凶作」と、かつて花の咲き方で稲の豊凶を占ったと記しています。

梅雨に先駆けて咲きはじめ、梅雨で花を散らすことの多いウツギは、古くから季節の指標だったのでしょう。透き通るほどに白く可憐なウツギの花は、万物を育み成長させる大いなる雨を呼ぶ、美しき依代(よりしろ)なのかもしれません。

ウツギ(卯木/空木)

学名: Deutzia crenata
英名:Deutzia

アジサイ科ウツギ属の落葉低木。北海道から九州まで、日当たりのよい野原や山林の縁、土手などに自生。垣根などによく利用される。花期は4~6月。径10 ~15mmの白い5弁花を円錐状に多く集め、下向きに咲かせる。ウノハナ(卯の花)とも。

この記事を
シェアする
  • X
  • facebook
  • B!
  • LINE

森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

記事一覧