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おから

旬のもの 2025.02.25

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「おから」のお話です。

全くノーマークだったメンバーが突然、「推し」になる。そんな経験をしたことがある人もいるのではないだろうか。私には「推し」がいる。それは、ある豆腐屋の「おから」だ。

豆腐食品には様々な商品がある。リーダー的存在の木綿豆腐、ビジュアル担当の絹ごし、どんな食材とも絡んでおかずになるバラエティ担当の厚揚げ…。そんな多種多様な豆腐食品の中で、おからは豆腐を作る過程で出る副産物。決して目立つ存在とは言えない。私もおからを大好きになる日が来るとは、思ってもみなかった。

新しいアトリエに引越し、近所のスーパーを探索していた時のこと。豆腐コーナーで京都のある豆腐屋の商品を見つけた。木綿や絹ごしと並んで、隅の方におからが置かれていた。「わざわざおからまで仕入れて売るのは珍しいな」と思って見ていると、何となくおから煮が食べたくなり、それを手に取った。

おから煮は和食の定番料理。素朴なおかずだが、実は様々な食材が楽しめる。おから煮で欠かせないのは、まず人参やごぼうの根菜。おから煮の味を下支えてしてくれる。椎茸は食感だけでなく出汁としても優秀だ。そして、こんにゃくを使えば、食感に奥行きが出てくる。最後にねぎを加えて、全体の味を締めるのを忘れてはならない。菜の花や枝豆など、季節の食材を加えて変化を付ければ、おから煮は年中楽しめるおかずになるのだ。

私はそれぞれの食材を炒め、みりんと醤油で味付けをした。おからを足して出汁を加えると、おからが水分を吸ってかさが増した。ちょっと作りすぎちゃったかもと思いながら、最後に全体の味を整えるべく味見をしたところで、びっくりした。

見た目にもふんわりしたおからだなぁと思っていたが、想像以上にしっとりしている。舌触りも良い。
今までおからなんて、ただの絞りかすだと思っていた。一時期実家で豆乳ブームがあり、豆乳を作ればつくるだけ、おからも出来ていた。食卓には、しょっちゅうおから煮が並んでいたのだが、自家製のおからは、ボソボソしていてちょっと食べにくかった。

それがどうだろうか、このおからは知っているものとは完全に別もの。「ボソボソ」なんて言葉はどこにも見当たらない。そして何より、おからに味がある。大豆のコクが感じられるようだ。
「なぁんて美味しいおからなんだろう…!」と感動しっぱなし。私はおからを侮っていた。おからは別名「卯の花」とも言われるが、「空木(うつぎ)」という白い可憐でふわふわした花に似ているからだという。まさしく、その名に恥じぬ上品な食べものであった。

これなら最後の味付けも、そこまで濃くする必要もない。軽く味を整え、最後に隠し味のお酢をさっと回し入れて、おから煮は出来上がった。さっそく私はぱくぱく食べてしまい、沢山あったおから煮はすぐになくなってしまった。

この日から、このおからは私の推しとなった。今ではおからといえば、これ一択。
おからが食べたくなった時は、スーパーに電話して取り置きをお願いするほど。おそらく店員さんの間では「おからを予約するあの人」で通っているかもしれない。

1〜2月ごろは新豆が出回り、豆の豊かな香りや甘みが楽しめる、おからの旬でもある。今の時期こそ、おからを食べてみてほしい。
私の直近の推し活はというと、この豆腐屋の本店に行くこと。なんと定期的におからの詰め放題の日があるのだ。旬の推しに会いに行けるなんて、なんて幸せなことなんだろう。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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