こんにちは。俳人の森乃おとです。
大ぶりで端正な青や白の星型の花を咲かせ、初夏の庭を爽やかに彩ってくれる蔓植物が、テッセン(鉄線)です。中国より渡来して以降、広く親しまれ、茶花や俳句の題材としても用いられてきました。蔓と花は図案化され、着物などに描かれるなど、日本文化に深く根を下ろしてきました。
テッセンは、クレマチスの重要な原種
テッセンはキンポウゲ科センニンソウ属の蔓性植物で、中国原産。日本へ渡来したのは江戸時代の寛文年間(1661~1673年)といわれます。ただし、1474年の文献に「鉄線花(テッセンクヮ)」の名があることから、室町時代には渡来していたという説も。和名の由来は、蔓の硬さを針金になぞらえた漢名「鉄線蓮(てっせんれん)」から。
学名は「 Clematis florida(クレマチス・フロリダ)」。属名のClematisは古代ギリシア語で「蔓」「巻き上げる」、種小名のfloridaは「花が多い」を意味しています。
テッセンは学名で分かるとおり、ガーデニング人気の高い「蔓植物の女王」と称されるクレマチスの仲間。そのため、園芸市場ではテッセンを指してクレマチス、あるいはクレマチス全般をテッセンと呼ぶこともあります。ただし、植物学的にはあくまでもクレマチスはセンニンソウ属の総称で、テッセンは中国原産種のみを指します。
テッセンは、「地味なクレマチス」と見られがちですが、日本原産の同属のカザグルマ(風車)とともに、園芸種クレマチスの重要な原種の一つ。ヨーロッパには1776年に渡ったとも。ちなみにカザグルマをヨーロッパに紹介したのは、江戸時代に来日したドイツ人医師、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796~1866年)です。
6枚の花弁のようにみえるものは萼片(がくへん)
テッセンの葉は、3枚の小葉がついた柄が2~3本出る「3出複葉(さんしゅつふくよう)」または「2回3出複葉」と呼ばれるタイプで、対生。小葉は長さ3〜8cmで、先端が尖った卵状披針形(らんじょうひしんけい)です。
淡い褐色で少し角ばった蔓は針金のように丈夫で強く、他のものに絡みつきながら巻き上がり、2~3mほどにも成長します。
花期は5~6月。葉の脇から長い花柄を伸ばし、白あるいは青紫色の花を一輪ずつ咲かせます。花径は5~8㎝。花弁は退化しており、6枚の花弁のようにみえるものは萼片(がくへん)です。全開して平らに開き、中央の暗紫色の雌しべと、それを囲む多数の雄しべがよく目立ちます。
花のあと、痩せた果実が実り、熟すのは10月頃です。果実には雌しべから変化した長毛が付着し、毛玉のようにみえる特徴があります。根茎は「威霊仙(いれいせん)」の名の生薬になり、利尿、整腸、通風に使用されます。
縁を結び、子孫繁栄を象徴する鉄線文様
さて、テッセンの優美な花や葉、特徴的な蔓を図案化したものが「鉄線文様(てっせんもんよう)」です。日本に渡来した近世以降、染織や陶磁器、漆器などに描かれ、家紋にも用いられるようになりました。
鉄線文様は、蔓植物が途切れることなく伸びる姿を表現した唐草文様の系譜にも連なります。テッセンの蔓は、細くしなやかでありながら、たくましくどこまでも伸びていきます。その姿から、逆境の中でも折れることなく生きる力の象徴とされたのでしょう。
また、蔓が絡み合い、連なって広がる様子は人と人、そして家と家の縁を結ぶイメージとも重ねられてきました。そのため、縁が切れることなく続いていく「吉祥文様」として、祝いの場の器や花嫁衣裳にも使われました。
花言葉は「精神の美しさ」「甘い束縛」
テッセンは、その細い蔓からは想像できぬほど、大きく美しい花を咲かせます。そのため外見の華やかさより、内面の強さを象徴するということから、「精神の美しさ」という花言葉が生まれました。また可憐な花には似つかわしくないほど、その蔓は強く絡みついて決して離れません。その束縛は苦しいながらも嬉しくもあり、まさに「甘い」のです。
テッセンを詠んだ私の好きな俳句には、次のようなものがあります。
作者は多くの植物を愛した鉱物学者・俳人。初夏の清々しさと、蔓を伸ばして咲き満ちる「鉄線」の生命力が、立ち上がります。「ひらく」という動作が、季節の息吹を呼び込む瞬間の喜びを詠う名句です。
テッセン(鉄線)
学名: Clematis florida
英名:Asian virginsbower
キンポウゲ科センニンソウ属の蔓性植物で、中国原産。園芸市場に流通する「クレマチス」の原種の一つ。花期は5~6月。白あるいは青紫色の花を一輪ずつ咲かせる。径5~8㎝。6枚の花弁のようにみえるものは萼片(がくへん)。花と蔓を図案化した「鉄線文様」で知られる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)