秋になると、急に唇が乾く。朝起きたときに喉がイガイガする。肌がカサカサして、なんとなく鼻の奥まで乾いている感じがする。
まだ昼間は暑い日もあるので、秋になった実感はあまりないかもしれません。でも、体はちゃんと季節の変化を感じています。
中医学では、秋の特徴を「燥」、つまり乾燥と考えます。秋になると空気中の湿度が下がり、夏までのジメジメした空気から、少しずつ乾いた空気へと変わっていきます。この乾燥の影響を受けやすいのが「肺」です。
中医学でいう肺は、呼吸をする肺だけではありません。鼻や喉、皮膚など、外の空気と接する場所とも深く関係すると考えます。そのため秋になると、喉が乾く、空咳が出る、鼻が乾燥する、肌がカサつく、便が硬くなる、といった不調が増えてきます。
乾燥対策は「水を飲めばいい」ではない
乾燥するなら水分をたくさん摂ればいいですか?とよく聞かれます。もちろん水分補給は大切です。でも、中医学の乾燥対策は、単純に水をたくさん飲むことでは無いんです。必要なのは潤いを補い、それをちゃんと保つことです。
植物を想像してみてください。乾いた土に一度に大量の水をかけても、うまく染み込まず流れてしまうことがあります。少しずつ水を与えて、土そのものが水分を保てる状態にすることが大切です。
人間の体も少し似ていて、水やお茶を一気にたくさん飲むより、食事の中からも水分を摂るのが重要です。梨、ぶどう、柿、山芋/長芋、豆腐、卵、胡麻など、秋は潤いを補う食材を普段の食事に取り入れてみてください。
特別な薬膳じゃなくていいので、例えば、長芋を味噌汁に入れ、豆腐を食べ、なんにでも胡麻(黒白どちらでも)をかけて、デザートに梨を食べてみてください。
乾燥対策では温かい汁物を
そして秋におすすめしたいのが、水分のある料理を一品増やすことです。例えば、朝にパンとコーヒーだけではなく、スープを足してみてください。夕食に炒め物だけではなく、味噌汁をつけてください。ご飯も、炊き込みご飯より雑炊やお粥も試してみてください。
漢方相談でも秋の養生を伝えるときに汁物をお勧めしています。飲み物だけで水分を補おうとするのではなく、食事そのものに水分を含ませた温かいものをとる。汁物なら胃腸にも負担をかけにくいし、食材からも一緒に水分を摂ることができます。
朝起きて喉が乾いている、便が少し硬くなってきた、唇がカサつく。そんなときは何リットル飲もうではなく、「今日の食事に汁物はあったかな?」と考えてみてください。
潤すより先に乾かさない
もう一つ、秋の養生で意外と大切なのが、潤いを補うことよりも今ある潤いを使いすぎないことです。
中医学では、体を潤すものを「陰」や「津液」と呼びます。
そして、汗をたくさんかく、夜更かしをする、辛いものをたくさん食べる、お酒を飲みすぎる、といった生活は、体の潤いを消耗させると考えます。乾燥しているから梨を食べる。でも夜更かしをして、お酒を飲んで、激辛料理を食べる。それでは、潤いを足しながら、反対側からどんどん抜いているようなものです。だから秋は「何を食べるか」だけでなく、「何を減らすか」も考えてみてください。
特に、乾燥が気になる日は辛いものやお酒を少し控える。運動も汗だくになるまでやらない。サウナなどで大量に汗をかいたら、その後の水分補給や休息までセットにしてください。全部やめる必要はないので、乾燥が強い日に少し減らしてみてください。それだけでも秋の養生になります。
秋の潤いを守る夜の過ごし方
もう一つ試してほしいのが、夜の乾燥対策です。
朝起きたときに喉や鼻が乾いている人は、朝になってから対策するのではなく、寝る前から始めてみましょう。寝室の空気の乾燥対策をする。寝る直前までお酒を飲まない。長風呂や熱すぎるお風呂で汗をかきすぎない。そして夜更かしを減らす。
中医学では、夜は「陰」を養う時間です。昼間は活動して、夜になったら休む。この当たり前のリズムが、体の潤いを守る養生になります。
秋になると、日が暮れる時間も少しずつ早くなります。自然界が外へ外へと広がっていた夏から、少しずつ内側へ収まっていく季節へと変化します。人間も同じように、夏の勢いのまま夜遅くまで活動するのではなく、少し早めに一日を終えるようにしてみてください。スマホを見る時間を10分短くして、その分早く布団に入るところから始めてみましょう。
秋は足すより残す
秋の乾燥対策というと、梨を食べよう、はちみつを食べよう、水分を摂ろう、と何かを足す養生が中心になりがちです。もちろん、それも大切です。でも体の潤いは、補うだけではありません。使いすぎなければ、その分残ります。
温かく水分のある料理を一品増やす。乾燥が強い日は辛いものやお酒を少し減らす。汗をかきすぎない。そして、夏より少しだけ早く休む。養生はまずこのくらいから始めてください。乾いてから慌てて潤すのではなく、乾き始める前から少しずつ始めてください。
空気が変わったな、と感じたら、食卓に一つ温かい汁物などを増やし、夜の時間は短くしてみてください。季節に合わせて暮らし方をほんの少し変えることが、秋を心地よく過ごすための養生です。

櫻井大典
国際中医専門員・漢方専門家
北海道出身。好きな季節は、雪がふる冬。真っ白な世界、匂いも音も感じない世界が好きです。冬は雪があったほうが好きです。SNSにて日々発信される優しくわかりやすい養生情報は、これまでの漢方のイメージを払拭し、老若男女を問わず人気に。著書『まいにち漢方 体と心をいたわる365のコツ』 (ナツメ社)、『つぶやき養生』(幻冬舎)など。
