大地の宝石のように咲く、秋の最後の花
季節を楽しむ生活に、そっと彩りをくれる花々。このページで紹介する花は、その季節の主役ではないかもしれないけれど、日本の四季がつくる景色に欠かせない大切な存在です。今回は、晩秋から初冬にかけて、宝石のように咲くリンドウ(竜胆)です。
(文・文中写真:和暦研究家・高月美樹)
秋の花の中で最後に咲くのが、リンドウ(竜胆)です。ほとんどの花が咲き終わった晩秋から初冬にかけて、山を歩いていると青い宝石のようなリンドウに出逢うことがあります。

すっかり落ち葉に覆われたような枯れ色の大地に、ポツンと輝いている青い花。ラピスラズリのような深いブルー、紫がかったものもあります。自然界に青い花は少ないので、ことさら神秘的にみえます。
近年はすっかり数が減ってしまいましたが、リンドウの野生種は基本的には背が低く、ひっそりと咲く、小さな可憐な花です。長い茎にたくさんの花をつける園芸品種のリンドウが出回るのは6〜10月ごろですが、この園芸種は背の高いエゾリンドウの改良品種です。
リンドウの根は古くから胃薬として知られ、熊の胆よりも苦いことから竜の肝のようだ、ということで「竜胆(りゅうたん)」と呼ばれ、それが訛ってリンドウと呼ばれるようになったのだそうです。

深い釣鐘形の花は真上を向いて咲きますが、曇りの日や雨の日はしっかりと閉じてしまいます。そのためリンドウの花が見られるのは、晴れの日のみ。数本ずつのコロニー、または単独で、凛として咲いています。野生のリンドウとの出会いには、そんな天候に恵まれた日の驚きと喜びがあります。
ところで、今頃から実をつけ始めるリュウノヒゲ(竜の髭)も、鮮やかなブルーです。竜の名はやはり青いものにつけられていることが多いようです。竜は陰陽五行で青を司るということもあるのでしょう。

リュウノヒゲ(竜の髭)は常緑の葉の中に、そっと宝を隠すかのように、瑠璃色の玉をつけています。その細く、長い葉の様子から「竜の髭」、また「蛇の髭」、また玉の色から「竜の玉」「玉竜」とも呼ばれています。
リュウノヒゲの実は冬にやってくる大型のツグミやシロハラなど、地面で餌を探す鳥たちに食べやすい大きさになっています。種は消化されずに排泄されることによって拡散されていきます。
葉の長さが短い園芸種は玉竜、黒いものは黒竜、白い斑入りの白竜など、いずれも竜のつく名前で呼ばれています。リュウノヒゲ(竜の髭)の球状にふくらんだ根は菌根菌で、咳止めや喘息の薬として知られる「麦門冬」です。
万葉集には山菅(やますげ)として14首も登場し、玉を拾ったり、根が長く絡まる様子が詠まれています。

晩秋の山をそっと彩る青い宝ものたち。森や山に行かれたら、ぜひ探してみてください。あ、と声をあげたくなるような瞬間があります。
文責・高月美樹
本文写真・高月美樹