こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
新緑の美しい季節がやってくると、各地の田んぼには次々と水が張られてゆきます。
田植えを前に、土の状態だった田んぼに水を流し込んで水田にすることを「田水張る」と言います。これは、俳句の世界では「夏」を表現する季語にもなっています。
「たみずはる」のたった5文字で、夏の田んぼの爽やかな光景を想像させてくれる言葉は、最小限の言葉で無限大の世界を表現せんとする、俳句ならではの美しい日本語のひとつです。
稲作には、実りの秋までにさまざまな工程がありますが、初夏の田水張りはまさしく「環境を整える」という土台作りの段階。
田んぼに水を張ると、熱しにくく冷めにくい「水」の力で稲が寒さから身を守れるうえ、連作障害を避けられること、雑草や病害虫の発生を抑えられることなど多くの利点があるのだとか。
田んぼに張られる水は、稲の生長にとって最適な環境を作るのに、欠かせない条件となっているのですね。
乾いた土に、まるで命が吹き込まれるかのように、水が染み込んでいく――。
その光景は、これから始まる稲作の大仕事に向けて田んぼが潤い、しっかりと稲を抱きしめ育てていく準備をしているようにも見えます。
どんな物事であっても、よい結果を導くためには、始める前の段階で「最適な環境作り」を行う下準備が必要になることは言うまでもありません。
水が張られたばかりの田んぼを見ていると「しっかり準備して、来たるべき(田植えの)時を待っていますよ」という、器の大きいお母さんのようにも思えます。
それだけでなく、水の張られた田んぼは鴨に蛙にトンボなど、さまざまな鳥や虫たちも集まって、小さな命の輝きがきらめくテーマパークのような希望に満ちた場所です。
都会の真ん中では、なかなか目にすることができない田んぼですが、どこかで見かけることができたら、その光景は心の引き出しにしっかりとしまっておきたいような気がします。
今年も、あちらこちらで「田水張る」風景が見られている頃でしょうか。
私たちも、心の田んぼに水を張って、素敵なものを育てていけるように潤しておきたいものですね。
いつかきっと、実りの季節が訪れることを祈りながら……。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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