ぺったん、ぺったん。
よいしょー、よいしょー。
あとすこしで年明けを迎えるという時期に、賑やかな声が響き渡る。近寄って見てみると、つく人(つき手)と返す人(返し手)があうんの呼吸で餅を搗(つ)いている。最初はお米だったのに、だんだんと餅のかたちへと変わっていき、おいしそうな湯気が立ち上る。観衆の熱気も手伝って、食べる前からほかほかと身体があたたまってくる...。

「餅搗(もちつき)」は、年末に行う日本の伝統的な行事。
お正月に食べるための餅を年末に搗いて準備することをいい、「暮」の季語です。
年明けに向けて、新たな気持ちで餅を搗く。
俳句にもきっとそんな前向きな歌が多いのだろうと調べてみましたが、意外とそうではありませんでした。
これは、松尾芭蕉が詠んだ歌。江戸時代、当時の人にとって餅搗きは各家の景気をあらわす意味合いが強かったそう。アピールのためにまだ暗く静まったうちから餅を搗く家もあったといいます。「詫び寝」は「詫び音」とも読み取れることから、芭蕉が布団の中でひとりぼんやりと天井を見上げながら侘しい気持ちが込み上げてきている様子が伝わり、なんとも切ない気持ちになります。

これも同じく松尾芭蕉が詠んだ歌で、晩年に発表されたものだそうです。
もうすぐ夜明けを迎える有明の月。年の瀬の、侘しさ残る静かな場所に、餅を搗く賑やかな音が鳴り響く。「三十日(みそか)」という言葉にも哀愁が漂ってきます。翌年、芭蕉は餅の音を聞くことなくこの世を去ったことを思うとよりいっそう感慨深い気持ちになります。
最近では餅搗をする光景はあまり見られなくなりましたが、私がいまだに思い出すのは餅搗をする人たちの「手」です。私の地元ではご近所さんが集まって、毎年餅搗をしていたのですが、搗きたてほかほかの餅を器用にくるくるっと丸めて、あんこやきなこをまぶしていく。次々とパックに詰めて「はい、どうぞ」と渡してくれる、厚くて大きくてやさしい手。パック越しにもあたたかさが伝わってきて、急いで家に帰って食べていました。

今は住む場所も周りの環境も変わって、餅はスーパーで買うことが多くなりましたが、あの賑わいや高揚感はいまだに餅を食べるたびに思い出します。もうあの頃には戻れない.
けれど、あの頃の思い出はずっと私のなかに息づいているような気がします。
私も芭蕉のように侘しさや懐かしい気持ちを抱えながら、年末年始は餅を食べて元気に過ごしたいと思います。
〈参考文献〉
書籍:
新村 出『広辞苑 第三版』 岩波書店(1983年)

高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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