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蛙の目借時かわずのめかりどき

季語 2025.04.17

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こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。

春も深まり、日向に出ると、ぽかぽかとそそぐ陽ざしの暖かさを感じるこの頃です。
こんな気候の日は、日中にもなんだか眠くなってしまうことが多いもの。
忙しなく生きている現代人には、ぼんやりしながら蛙の声を聞くような時間や環境が、ずいぶん珍しくなってきているのかもしれませんが……。
昔から、蛙がさかんに鳴き始める晩春は「蛙の目借時(かわずのめかりどき)」という季語が生まれるくらい、昼間から眠気に誘われる人が多かったようです。

この言葉の由来は「春に眠くなりやすいのは、蛙が人の目を借りるからだ」という俗説から来ています。
一瞬、「えっ、どういう意味?」と笑って突っ込みたくなるくらい、なかなか無茶なこじつけにも思えますが……。居眠りしている人を「ちょっと、寝ないでよ」といさめた時、「ごめん、蛙に目を借りられていたみたい」と言い訳されると、たしかに笑って許してしまいそうですよね。

目を借りる、というのがピンと来ない人もいるかもしれませんが、もともとは、蛙が雌を呼ぶために盛んに鳴く「妻狩り」から転じた言葉だとも言われています。
春は多くの生き物にとって、恋の季節ですからね。
たしかに、蛙たちの大合唱を聞いていると、それがいつしかBGMのようになって、不思議と心が落ち着くのはなぜでしょう?

そういえば、春と言えば蛙の声ですが、秋には虫の声が、私たち日本人にとっては季節ならではの風情を感じさせるものですよね。
実は、こういった自然界の音を耳にしたとき、外国人の多くはそれを「雑音」として脳が処理するのに対して、日本人は「言語」と同じように脳が捉えている――という研究があるのをご存知でしょうか。

人間の脳は共通して、「音楽脳」と呼ばれ音楽・機械音・雑音などを処理する右脳と、「言語脳」と呼ばれ言葉の理解や論理的な処理を行う左脳とに分かれています。
しかし、「虫の音」を聞いた時、外国人はそれを「音楽脳」の右脳で聞き「雑音」として捉えるのに対して、日本人は「言語脳」の左脳で聞き「声」として捉えており、聴覚の処理に大きな違いがあることが分かったのだと言います。

また、これは動物の鳴き声だけでなく、風の音や雨の音、波の音や小川のせせらぎなどにも共通しているとのこと。
日本人は、自然界から聞こえてくる音を単なる「音」としてではなく、「自然からの言葉」として捉えているのかもしれませんね。

分かりやすく「日本人」「外国人」と書きましたが、不思議なことに、この特徴は単純に日本人と外国人の違いではなく、幼少期に日本語を母国語として教わったかどうかで、脳に違いが現れるのだそう。
日本は古くから「言霊(ことだま)の幸(さき)わう国」と言われ、言葉の持つ力を信じ大切にしてきたように、日本語を聞いて話すということが、どれほど感受性に深みを生み出しているかを感じずにはいられません。

蛙の鳴き声も、私たちにどんなことを話しかけてくれているのでしょうか。
感じ方は人それぞれかもしれませんが、眠くなる人が多いということは、もしかすると「おつかれさま。ちょっとゆっくり寝て、休んだらどう?」などと聞こえてくるのかもしれませんね。
この春は、自然界からの「声」にもそっと耳を傾けながら、心豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

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紺野うみ

巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。

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