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桐一葉きりひとは

季語 2025.09.26

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まだまだ暑い日が続きますね。

そんな中でも少しずつ、季節は確実に進んでいるなぁと感じます。
ツバメは南へ帰る準備をし、彼岸花が咲いています。日中の風にも、ほんのりと冷たさを感じるようになりました。

ほぼ毎日のように「小さな秋」を見つける瞬間が増えてきて、その度に色々な思いがよぎります。夏が終わってしまうさみしさと、秋が訪れることへのワクワク感。
そんな心情をぴったりと表す言葉があります。
それが「桐一葉(きりひとは)」です。

「桐一葉」とは、桐の葉が一枚はらりと落ちる様子に秋の訪れを感じ取る言葉で、秋の季語です。

桐は丸く大きな葉を持つ落葉高木で、成長すると高さ10メートルほどになります。
材質は軽く、湿気や水に強いため、昔から日本の建具や家具に利用され、とくに桐箪笥は嫁入り道具の定番として重宝されてきました。

暮らしに身近な植物ですが、なぜ昔の人は「桐の葉が一枚落ちる」ことに季節の変化を感じたのでしょうか。他の木、たとえば秋を代表するイチョウやカエデの葉もはらりと落ちますが、なぜ「桐の葉」だったのでしょうか。

調べていくと、桐の葉に大きな特徴があることがわかりました。
まず、桐の葉はとても大きな葉です。成木の葉は15〜30cmほど、若木の葉はとくに大きく60cmほどになることもあるそうで、人の手のひら以上の大きさで存在感があります。
それらが一枚落ちるとき、実際には静かに「はらり」ではなく「バサッ」という音を立てて落ちたのかもしれません。

対してイチョウやカエデは葉が小さいので、落ちる瞬間には気づきにくいものです。
また、葉っぱが鮮やかに色づくことから「一葉」ではなく「黄葉」や「紅葉」として、秋の盛りを象徴してきました。

さらに、桐の葉は文様としても大切にされてきました。
正式には「桐の薹(と)」と言われ、菊とともに皇室の紋章や神紋に用いられたり、中国では鳳凰の宿る木とされたりするなど、高貴な象徴としても扱われてきました。
また「桐一葉」には「衰退のはじまり」という意味も込められているのだとか。

そんな背景を知ると「桐の葉が一枚落ちる」という出来事の大きさが、わかるような気がします。季節の変化と同時に、なにか「兆し」のようなものを感じたのかもしれません。たった一枚であっても、それはすべての終わりであり、はじまりでもあるのです。

ゆったりと落ちていく桐の葉を眺めながら、そこに人々が情景を重ね合わせたことを思うと切なさが込み上げて、じーんと胸が熱くなってくるようです。

今年は桐の葉から、夏の余韻と秋の深まりを味わってみたいなぁと思います。

※参考
新村 出『広辞苑 第三版』 岩波書店(1983年)

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高根恭子

うつわ屋店主
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。

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