霜降 10月23日~11月6日 九月中〈つゆが陰気に結ばれて、霜となりて降るゆえなり。『暦便覧』〉
袱紗(ふくさ)に包んで
霜降は、二十四節気の秋の最後を飾ります。次はもう立冬。なぜか気持ちが急いてくるのは、冬と年末が近づいてくるからでしょうか。とはいえ、紅葉が徐々に進んで、近所の散歩も楽しくなる時季でもあります。きりりと冷えた空気と澄んだ空を見上げて、晩秋をじっくり味わいたいものです。
さて、今回ご紹介するのは、袱紗。日々の暮らしで使う機会はあまりありませんが、いざという時にないと困るものでもあります。そのときになって慌てないように、手元に用意しておきたいもののひとつです。
おもに金封を包むための袱紗は、裏地をつけた袷仕立ての正絹の布。紫色の縮緬が一般的ですが、紺色や細かな小紋柄のものもあります。出向く先のシチュエーションによっては、明るい色のものを使うのもよさそうです。
まだ学生だった頃の話です。兄が先輩の結婚式に招ばれて行くと、同じ招待客の同級生が、ご祝儀袋を袱紗に包んで持って来たそう。兄も当時は学生の若者、「袱紗を使っていたんだよね」といたく感じ入った様子でしたが、それを聞いた妹もまたシビれました。それが大人のたしなみというものね。「袱紗」という名称もまた、典雅でやわらかそうで、憧れの思いが募りました。
とはいえ学生の身だったこともあり、それからすぐに袱紗を手に入れたわけではありませんでしたが。自分の袱紗を購入したのは、仕事をするようになってだいぶたってからでした。
袱紗の使い方も、祝儀と不祝儀では金封の包み方が左右逆になります。包んだ袱紗を開くときに、南を向いて日が昇るような向きに包むのが、慶事の場合の包み方。左から右へ、右手で自然に開けます。弔事、不祝儀の場合はその反対に。これは、武家の作法「折形」を習って知ったことでした。そんな法則があるのだ、とこれまた深く納得したものです。
桐箱に入った縮緬の袱紗。これが箪笥の引戸棚に入っていると思うだけで、どこか大人の気分です。いつ何時必要になっても慌てないぞ、という安心感にも繋がります。これから年末年始、また春には袱紗の活躍する機会も多くなるはず。冬が来る前の今のうちに、しわを伸ばしてお手入れをして、準備万端整えておきます。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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