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針供養はりくよう

暦とならわし 2022.02.08

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こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。

日本の暦の中には、先人たちがさまざまな意味や想い、そして願いを込めて生み出してきた文化がたくさんあることに気がつきます。
中でも今回ご紹介する「針供養」は、とてもユニークでありながら、心がほんのり温かくなるような素敵なならわしです。

2月8日は、農作業の「事始め」にあたる日。そして、その年の12月8日が、一年間の農作業の「事納め」です。
一方、「事」をお正月の意味で捉える地域では、12月8日がお正月準備の始まりなのでこちらを「事始め」と言い、年をまたいでお正月が終わり、片付けも済んでまた日常に戻ってゆく時期の2月8日を「事納め」としています。
このように「事」が何を指しているかによって、始めと終わりが逆転するのですが、これらを総じて「事八日」とも言います。

針供養は、事八日に行う行事のひとつ。かつては「物忌み」と言って、日常的な行為を控えることで不吉や穢れを避ける日でした。
仕事を休んで家にこもる日とされたこの日には、針仕事もお休みして、これまでに曲がったり折れたり、錆びたりして使えなくなってしまった針を、文字通り神社やお寺で丁重に「供養」します。

生き物じゃなくて物なのに、供養するの? と不思議に思われた方も多いことでしょう。
日本には、あらゆるものに「神様」や「精霊」が宿るという考え方が息づいていますが、針供養もそのひとつの表れなのではないでしょうか。
まさしく「物であっても心をこめて大切に取り扱う」という日本人らしい素敵な精神が、この文化の中には込められている気がしてなりません。

針供養は、豆腐やこんにゃくなどのやわらかいものに、使えなくなってしまった針を刺すという方法。こうすることで、普段はかたくて厚みのある布などに刺して使うことが多い針を、「お疲れさま、ありがとう」と労う意味があるのです。
近年では日常的に裁縫を行う人も少なくなってきていますが、「針への感謝」と「裁縫の上達」を願って行われるこの行事は、針仕事を生業としている人や服飾関係の会社、和裁洋裁の学校などが特に大切にしています。
裁縫をする人にとって、針は仕事の道具として、なくてはならない存在だからです。

針に限らず、壊れてしまった物は、簡単にポイッと捨ててしまうこともできます。しかし、使えなくなってしまった物にこそ、「これまでがんばってくれてありがとう」「力を貸してくれて助かりました」と感謝の心を向けてみませんか。
どんな物でも、大切にすればするほど持ち主の想いに応えて、大いに力を発揮してくれるに違いありません。

今は何でもかんたんに手に入り、かんたんに捨てられてゆく物が多い時代です。そんな中を生きている私たちこそ、こういった文化の中に秘められた精神を思い返すことが必要なのではないでしょうか。
針供養だけでなく、使ってきた物が役目を終えるときには、その物に対する感謝の気持ち――すなわち、「供養」の心を忘れずにいたいものですね。

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紺野うみ

巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。

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