暗闇のなかにぼんやりと浮かぶ、やさしい灯火。
「灯籠」は、お寺や神社、お祭りなどでよく見かける古くからある照明器具のひとつです。「灯(あかり)」の「籠(かご)」と書き、文字通り、灯りの火が消えないよう枠で囲いをして風から守る役割をしています。
灯籠はもともと中国から仏教とともに伝わり、奈良時代に寺院建設が盛んになると同時に広がりました。おもに僧侶が使うものでしたが、やがて神社の献灯としても使われるようになり、その後、室内で使用するものを「行燈(あんどん)」、折りたたんで持ち歩くものを「提灯(ちょうちん)」と呼ぶようになりました。
やがて仏教的な意味合いを超えて、人々の生活にも広まるようになったと言われています。
灯籠といえば、神社やお寺にある「石灯籠」を思い浮かべます。
よく訪れる近くの神社、奈良県の春日大社では、参道に石灯籠がずらりと並んでいて毎度賑やかに迎えてくれます。
本殿へ向かうなかでこの光景を見ると、「神社に来たなぁ」としみじみ思いますし、まるで歓迎されているかのような気分になります。
さらに先日、春日大社で行われていた「中元万灯籠」へ行きました。これは、800年前から今にいたるまで貴族や武士、庶民から奉納された3,000基もの灯籠に火を灯すイベントです。
いつもみているはずの風景が別世界に変わったようで、うっとりと見入ってしまいました。
仏教では「灯」は邪気を払うとされていて、火を灯すことで亡くなった人々を供養する意味があるそうです。さらに、亡くなった方があの世で迷子にならないように「道標」としての役割もあると言われています。お盆の時期に灯籠流しやお祭りが行われる地域があるのも、このことからきているのですね。
私は、灯籠をみていると「いのち」を感じるなぁと思います。ぼんやりと明るく照らされた光の先に見える「ゆらぎ」が「いのち」を象徴しているような、そんな気がするのです。
特にろうそくをつけたとき、炎の様子をじっと見ているとよくわかります。すっと背筋を伸ばしたように真っ直ぐと炎が立ち上がり、風が吹くとゆらゆら消え入りそうになる。フッと息を吐くとあっという間に暗くなってしまう。その「ゆらぎ」が人生そのものなのではないかなぁと。
かつて、家で灯りを楽しみたくてミニチュアの灯籠をつくったことがありました。和紙で囲いをつくって、そのなかに炎に見立てた電球を置きました。大変気に入って毎日寝る前につけていたのですが、和紙の柔らかさにオレンジ色の灯りが重なって、眺めるだけでやさしい気持ちになっていました。
最近は実際の炎をみる方が好きで、よくキャンドルに灯しては眺めています。
昔からうじうじと悩む性格なのですが、不思議と灯りを見ていると自分の状況を客観的に見つめて落ち着くことができるような気がするのです。
近頃は明るいLED電球が普及していますが、生活のなかでたまには「灯りを見つめる時間」をもってみるのもいいものです。5分でも10分でも、見終わったあとの心持ちが全然違うなぁと感じています。
安らぎを与え、ときに道標にもなってくれる灯籠の灯り。
昔もいまも、その役割はずっと変わらないのかもしれませんね。
写真提供:高根恭子
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