こんにちは。巫女ライターの紺野うみです。
おめでたい一年の始まりには、多くの日本人が縁起の良いものや体に良いものを取り入れて、その年を無事に健康で過ごせるように願うのではないでしょうか。
特にお正月、口にするものに込められた想いや祈りは、特別なものばかり。
そして、今回ご紹介する「お屠蘇」も、薬酒といって体を内側から健康にしてくれる縁起の良いお酒です。
「屠蘇」の文字を紐解くと、「屠(ほふ)り、蘇(よみがえ)る」という名前の通り、邪気を屠り(祓い)、魂を蘇らせるという意味があるのだとか。
平安時代に中国から伝わった文化で、日本でも無病息災・健康長寿・魔除け・厄除けなどの祈りを込めて、古くから受け継がれてきました。
大晦日の夜に、屠蘇散(とそさん)と呼ばれる生薬(5から10種類の薬草)を清酒やみりんに漬け込んで作り、元日の午前中、おせちなどのご馳走を食べる前に飲むのがならわしです。
地域によって使われる生薬の種類は異なるのですが、山椒(サンショウ)・白朮(ビャクジュツ)・桔梗(キキョウ)・陳皮(チンピ)・八角(ハッカク)・桂皮(ケイヒ)・防風(ボウフウ)などが一般的です。
それぞれに胃を整えたり、解熱・鎮痛・抗菌作用や血行促進作用があったり、さまざまな効果が集約されています。
正式な作法を調べてみると、使う杯も「屠蘇器」という専用の特別なものが存在し、飲むときの手順にも厳密には細かな決まりがあります。
たとえば、お屠蘇のための器は、屠蘇台・盃(さかずき)台・盃・銚子(ちょうし)・銚子飾り(ちょうしかざり)の一式があり、色も高貴とされる朱塗りや、黒塗り、白銀などが多いです。
しかし、現代は屠蘇器の用意が無い家庭がほとんどかと思いますので、お正月にふさわしい器であれば、あまり気にしすぎなくてもよいのではないかと思います。
正式な作法は、お屠蘇を飲む前に年明けの朝一番に汲んだ「若水」で手を清め、神棚や仏壇にお参りをします。まず、神様やご先祖様に最初のご挨拶をするところは、日本人らしい精神性の現れですね。
次に、家族で新年の挨拶を済ませたら、東の方角を向きお屠蘇を盃に注ぎます。
飲む順番は、若者の生気を年配者に分け与えるという意味で、年少者から年長者の順に口にします。ただし、厄年に当たる人は、家族から厄祓いの力を分けてもらうために最後に飲みましょう。
お正月には、遠く離れて暮らしている家族や親戚が集まり、大勢で食卓を囲み宴会を楽しむことも少なくありません。
そんな時に、みんなでお屠蘇を回し飲みして、お互いに一年の健康と幸福を願うのでしょう。
私も子どもの頃、元日の朝、祖母に「お屠蘇飲む?」と声をかけられたものでした。
当時は、生薬とお酒の香りが混ざった独特な味に、少なからず苦手意識を抱いていましたが、今振り返るとお屠蘇を進めてくれた祖母の愛情を、しみじみと感じてなりません。
自分だけでなく、家族みんなの健やかな一年を祈って、お屠蘇はきっと日本人のお正月に定着していったのでしょう。
私も大人になった今、かけがえのない人と一緒に行う、やさしい祈りを込めたならわしにしていきたいと思っています。
紺野うみ
巫女ライター・神職見習い
東京出身、東京在住。好きな季節は、春。生き物たちが元気に動き出す、希望の季節。好きなことは、ものを書くこと、神社めぐり、自然散策。専門分野は神社・神道・生き方・心・自己分析に関する執筆活動。平日はライター、休日は巫女として神社で奉職中。
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