特定の日が決まっていない春の節日
田植えなどの農作業で忙しくなる前に、みんなで野山に出てご馳走を食べたり、摘み草などをしたりして春の日を満喫することを「春ごと」といいます。「春の事」「事祭(ことまつり)」「事追祭(ことおいまつり)」などさまざまに伝えられており、事は小さな祭を意味しています。
「春ごと」は全国的に決まっている特定の日があるわけではなく、和暦の二〜四月(西暦3〜5月)頃の佳き日を選んで、各地で行われてきたもので、雑節には含まれていませんが、節日(季節の変わり目を祝う日)です。

その風習は地域によってさまざまで、山に登って飲食をしたり、野山を歩いたり、船遊びをしたり、誰かの家に集まって茶事や酒宴をひらいたり、みんなでお餅をつくって食べたり、色々です。必ずしも晴れの日ばかりではなく、あえて雨の日を選んで行う地域もあったようです。
「春ごと」はいわば、春を満喫するためのピクニックであり、仲間と共にすごすお集まりです。
河内の春ごと、菜種御供大祭
唯一、日にちが決まっている「春ごと」もあります。道明寺天満宮の菜種御供大祭(なたねごくうたいさい)は平安時代に遡る由緒ある祭祀で、3月25日に行われています。
左遷された菅原道真が太宰府に向かう途中、叔母の覚寿尼がいる道明寺に立ち寄ったところ、辺りには一面の菜の花が咲いていたといいます。
心中を察した覚寿尼がその後の旅の無事を祈って、毎日、菜種色の団子を作ってお供えしていたところ、そのお下がりの団子に病気平癒の効果があるとして大勢の参拝者が訪れるようになり、春の神事として定着しました。
菜種が「なだめ」に通じるともいわれており、現在も道真の命日3月25日(旧暦二月二十五日)に菜種色のお団子が配られ、可愛いお稚児さんたちが菜の花を持って練り歩く、通称「河内の春ごと」として親しまれていいます。
現代の節日として「春ごと」を楽しむ
ちょうどお花見の季節。家族や友人と、近くの公園や森にお弁当を持って出かけてみてください。一人ではなく、誰かと。みんなで祝う日と心に決めれば、誰かの家に集まって美味しいものを分かち合うだけでも、「春ごと」になります。
本来の節日は季節の変わり目に設定されていました。西暦の普及と共に規則正しく週末の休日が設定されている現代において、季節の行事は休日としての意味をなさなくなりましたが、かつては季節の節目が人々にとっての大事な休日であり、その休日はつねに自然との関わりの中にありました。
「春ごと」は特定の日が決まっていないからこそ、誰もが実現できる春の行事であり、リクリエーションです。春を愛し、共にすごす人々と睦み合い、心から今日という日を祝う気持ちさえあれば、誰にでもできる節日なのです。
桜だけでなく、今は大地も花盛りです。足元の小さな花々にも目を向け、やわらかい草の感触を楽しむ日を作ってみてください。
文責・高月美樹

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