こんにちは。星空案内人の木原です。
夜の肌寒さがだんだんと和らいできましたね。地上と同じように宙も春模様に衣替えをしています。この時期の21時頃、東から南の宙を見上げると春の星々が輝いています。春霞が宙を覆う日は星の光も霞んで、冬のようにくっきりとした光には見えませんが、霞に包まれた星の光は春の暖かい優しさを表しているようで、冬とはなんとも異なる表情を楽しめます。
そんな春の星たちの中に「春の夫婦星」と呼ばれているふたつの星があります。ひとつは、うしかい座の一等星アークトゥルス。もうひとつは、おとめ座の一等星スピカです。
アークトゥルスはギリシャ語で「クマの番人」という意味。うしかい座の隣にはおおぐま座があり、その後を追うように宙を移動する様子から名付けられたと言われています。
そしてスピカは、麦などの穀物の「穂先」という意味。スピカがあるおとめ座のモデルとなった豊穣の女神デメテルが持つ麦の穂先に位置することからきています。名前も由来も関連がなさそうに思えるアークトゥルスとスピカが、なぜ夫婦星と呼ばれるのでしょうか。
日本には、地域ならではの文化や風習に合わせた星の呼び名があります。それらは星の和名として知られ、アークトゥルスとスピカにもいくつか和名があります。
例えば、アークトゥルスは、麦が実りを迎える時期に輝くことから「麦星」。スピカは、その輝きが真珠のように見えることから「真珠星」と呼ばれています。さらに、ふたつの星の色をよく観察してみると、アークトゥルスは淡い黄色、スピカはほのかに青味がかった白色をしています。この対照的な色合いからアークトゥルスは「金星(きんぼし)」、スピカは「銀星(ぎんぼし)」とも呼ばれています。
金、銀と聞くとペアになっているイメージがありませんか。日本ならではの感性がいつの間にかこのふたつ星を「春の夫婦星」にしたのかもしれません。金星と銀星が東から西へと仲良く歩みを揃えて進んでいるような様子と、春ならではのぼんやりとした星の輪郭が、少し照れながら足並みをそろえて歩いている新婚夫婦の姿に思わせてくれます。
この夫婦、今はまだ少し距離がありますが、宇宙空間では金星が猛スピードで銀星に向かって動いているそうで、5~6万年後には本当に寄り添い合って宙に輝くと言われています。もしかしたら夫婦ではなく、銀星に恋した金星が猛アタックしている最中なのかもしれません。
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