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日本の色/麹塵きくじん

にっぽんのいろ 2022.08.27

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染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている、豊かな美しい日本の色。
その中から、今月は「麹塵(きくじん)」についてご紹介いたします。

麹塵

例年通り暑い日が続く8月ですが、お盆を過ぎた頃から夕暮れ時には涼やかな風が感じられる時もあり、秋の訪れが見え隠れするようになりました。工房に植えられた胡桃の木には、胡桃の実がたわわになりはじめ、少しずつ熟してはトタンの屋根に、大きな音を立てて落ちるようになりました。この音がなるといよいよ秋がやってくるなと感じます。

この時期になると、様々な木々に実がなりはじめますが、その色はまだ青々としています。かつて、団栗の熟す前の青い実の色を「青白橡(あおしろつるばみ)」と呼んでいました。「橡」とは、櫟(くぬぎ)や、楢(なら)、樫(かし)など、一般に団栗(どんぐり)とよばれるものの奈良時代の古名です。

団栗

この「青白橡」という色は、源高明(みなもとのたかあきら)が平安時代の半ばに宮中における年中行事の作法を解説した『西宮記(さいぐうき)』に、「麹塵(きくじん)与 青白橡 一物」と記されていて、「青白橡」と「麹塵」が同様の色であることがわかります。この「麹塵」は、コウジカビの色のことで、緑青が少しくすんだような不思議な、また魅惑的な色をしています。平安時代には、黄櫨染(こうろぜん)と同じく、天皇だけが着用できた禁色とされていました。

麹塵染の衣裳

『延喜式』「雑染用度(くさぐさのそめようど)」には「青白橡」として登場しますが、「青白橡綾一疋。苅安(かりやす)草大九十六斤、紫草六斤、灰三石、薪八百四斤」と書かれています。染色をする場合、緑系の色を表す時には黄色系の染料と、藍染を掛け合わすのがスタンダードなのですが、青白橡、すなわち麹塵を表すには、苅安の黄色と紫草の紫を掛け合わせて染めると記されているのです。

刈安
紫草の根

工房でも実際に試してみると、確かに、くすんだ抹茶のような緑色に染まりました。不思議なことに、室内のほのかな明かりの中では薄茶色のようになり、太陽の光が当たると緑の色が際立つように見えます。黄櫨染と同様に、二つの染料を掛け合わせた色は、光の当たり具合によって、見え方が変わるように思え、こうしたところが麹塵や、黄櫨染が天皇のみに着用が許された禁色である所以(ゆえん)であるような気がします。

苅安で染めた色自体も、色鮮やかで輝くような黄色ですが、そこに高貴な色とされる紫色が組み合わさり、日の光が当たることによって更に輝きを増すこの色は、また、神々しい色なのだと思います。

写真提供:紫紅社

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吉岡更紗

染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。

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