染織家の吉岡更紗です。私は、京都で200年以上続く染屋「染司よしおか」の六代目で、いにしえから伝わる技法で、植物を中心とした自然界に存在するもので染色をしています。
世界中でも類をみないほど数が多いといわれている豊かな美しい日本の色。
その中から、今月は「水色(みずいろ)」についてご紹介いたします。
今年は梅雨が短く、気温が上がるのがとても早かったこともあり、例年よりも早く夏の到来を感じています。クーラーのない工房の作業場は、毎日ぐったりするような暑さです。20年ほど前に、井戸を掘って地下水を100mほど下からくみ上げているのですが、水温が一定なので、非常に冷たく感じられ、この暑い中に唯一涼しさを与えてくれる存在です。
工房がある京都市伏見区は、かつては「伏水」と書かれていたほど、地下水が豊かな場所で、酒造業も大変さかんになった場所です。また鉄分のすくない良質な水が湧いているので、飲むにもおいしく、また染色をするにも色鮮やかな色に染められるといわれていて、私共はその恩恵を受けて仕事をしているのです。
海や川を流れる水は、色のない、いわゆる透明な色をしていますが、晴れた空の色を映して水面は淡い、時には濃い青色をみせています。その色をいにしえより、淡く藍で染めた色で表してきました。『万葉集』に「水縹(みはなだ)の 絹の帯を 引き帯なす」という言葉が出てきます。縹(はなだ)とは、藍で染めた色の総称として使われていた言葉で、その前に「水」をつけて、水の色を淡い藍色で表していたことがわかります。
「水色」という名前が使われるようになったのは平安時代からのようで、『紫式部日記』に「大海の摺裳の、水の色はなやかに、あざあざとして」という記述がみられます。波など、海を思わせる模様を摺染(すりぞめ)にした水色の裳(も)が鮮やかである、と描かれているのです。
藍染をするために、日本では長く蓼藍(たであい)の葉が使われてきました。5世紀頃、中国から渡来し、平安時代には播磨国と、京都南部の鴨川の下流にあたる九条の湿田が主な産地だったといわれています。「水藍」とも呼ばれていたほど、水の多い土地を好む植物で水害にも強い性質を持っています。
その葉は丁度今頃の季節に大きく成長し、藍色の色素を蓄えていきます。これを刈り取り、刻んで、酢水の中で揉み、色素を出す生葉染と様々な方法で発酵させて瓶に建てる建染の二種類の方法があるのですが、水色はこの季節だけ染められる生葉であらわすのがふさわしいと思います。水分をたっぷりと含んだフレッシュな藍の葉から、澄んだ水の色を表すことが出来るので、染めあがった布を見ると、少しだけ暑さを忘れられるような気がします。
写真提供:紫紅社
染司よしおかさんの展示が開催中です
細見美術館
美しき色、いにしへの裂―〈ぎをん齋藤〉と〈染司よしおか〉の挑戦 ―
2022年7月2日(土) - 8月28日(日)
【前期】7月2日(土) -7月31日(日)
【後期】8月2日(火)- 8月28日(日)
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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