染織家の吉岡更紗です。朱色、紅、古代紫、葡萄色、藍色、萌黄色…日本では様々な美しい色の名前がつけられてきました。今回は、その中から「深緋(こきあけ)」についてご紹介致します。
「深緋」の「緋」は「あけ」もしくは「ひ」とも呼び、「緋色(ひいろ)」とは人間の生命を司る太陽の輝くような色、そして人間が生きるために操る火や炎の色を象徴するような赤を表しています。
少し黄味のかかった赤色で、古代では朱などの顔料、そして茜で染められてきました。日本では「Rubia akane NAKAI.」と呼ばれる種類の茜が生育しますが、その根の部分に、プリイドプルプリンと言われる赤の色素が含まれています。この日本茜は黄色素も多く、染め重ねると色が濁りやすいので、透明感ある美しい赤の色合いを出すのに非常に苦心する染料です。
「緋」は「絳」とも記されますが、弥生時代、2~3世紀ごろにあったとされる邪馬台国について書かれている『魏志倭人伝』には、239年、女王卑弥呼が、魏の国から金印を受けた際に、絳地交龍錦5匹などの赤い錦を貰い受けた記録があり、その4年後に、倭国が使者を使わして生口(奴隷)、倭錦(日本製の織物)、絳青縑(赤や青の絹布)などを献上したと書かれています。これにより、日本で茜染の技術が完成していたのではないかとも言われています。
飛鳥時代、603年聖徳太子が制定した冠位十二階(官位を十二に分けて、朝廷に出勤する際の冠や衣服の色を位によって分ける)では、紫、青、赤、黄、白、黒のそれぞれ濃淡という色合いを定めましたが、後に647年孝徳天皇が制定した13階の冠位の中に「真緋」、649年に制定した19階の冠位の中に「緋」、664年天智天皇が制定した26階の冠位には「深緋」などの色名が記載されています。
奈良時代まではその他も「浅緋」など様々な赤色が官位に使われていたことがわかります。それらは、日本茜で染められた黄味のある赤であったのではないかと考えられ、「深緋」もそれを濃く濃く染め上げたものではないかと推測できます。
ところが、平安時代に入り編纂された『延喜式』「縫殿寮」には、「深緋綾一疋。茜大四十斤、紫草卅斤、米五升、灰三石、薪八百四十斤」と書かれており、茜染めの赤に紫根染の紫を染め重ねている、と記しています。一斤は約600gと言われていますので、どちらの染料も「深緋」を出すために大量に必要であり、深紫、浅紫に次ぐ高貴な色合いであったと考えられます。
余談になりますが、私は三姉妹の末っ子として生まれています。「紺屋の白袴」という言葉があるように、私達姉妹は自分の着るものを植物染めのもので整えるということはなかなかできませんでしたが、それぞれ成人する時に、父は反物を工房で染め振袖を作ってくれました。晴れやかな赤がいいと考え、長女は茜染、次女は紅花染めでしたが、3人目の私の時には忙しく時間が取れなかったこともあり、売れ残っていた(笑)紫根染の反物に茜を染め重ねて「深緋(こきあけ)」にしてくれました。大人の事情で、結果末娘の私が高貴な色合いの振袖を身に着けつけ、成人式に挑みました。
吉岡更紗
染織家・染司よしおか6代目
京都市生まれ、京都市在住。紫根、紅花、藍などすべて自然界に存在する染料で古法に倣い染織を行う「染司よしおか」の6代目。東大寺二月堂修二会や薬師寺花会式など古社寺の行事に染和紙を納める仕事もしているため、冬から春にかけてが一番好きな季節。美しい日本の色を生み出すために、日々研鑽を積む。
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