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菜虫化蝶なむしちょうとなる

二十四節気と七十二候 2021.03.15

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今年もモンシロチョウが舞い始めました。私はモンシロチョウが舞い始めると春もいよいよ半ばに入ったな、と感じます。

モンシロチョウは知らない人がいない、日本でもっともポピュラーな蝶ではないかとおもいますが、元々はヨーロッパ南部の蝶が世界中に広まったもので、正確には外来種です。日本には奈良時代、ダイコンと一緒についてきて、全国に広まったそうで、幼虫がアブラナ科のみを食草とするため、日本では長らく「菜虫」と呼ばれてきました。近年は「青虫」と呼ぶことの方が多いですね。

モンシロチョウによく似た日本の在来種はスジグロチョウですが、畑の野菜ではなく、野生のアブラナ科を食草とするため、中山間部に生息しています。写真は田んぼの近くにいたスジグロシロチョウです。

スジグロシロチョウ

ところで、アブラナ科の葉を食べられる虫は、ごくわずかであることをご存知でしょうか。

アブラナ科の野菜といえば、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ダイコン、カブ、コマツナ、ハクサイ、ナノハナ、ミズナ、カラシナなど。食卓ではおなじみの野菜ばかりで、もちろん人間には害がないのですが、虫が嫌がる強力な毒を含んでいます。そのためほとんどの虫は食べることができません。

蝶の中で、唯一、アブラナ科の葉っぱを食べられるのは、モンシロチョウの幼虫だけです。これは数千年かけて生まれた共生関係で、モンシロチョウだけはアブラナ科のもつ毒を食べても死なない特殊な身体を手に入れ、アブラナ科の野菜と共生してきたのです。人間がつくる野菜の普及とともに、世界中に生息地を拡大することができたのがモンシロチョウというわけです。

モンシロチョウは必ずアブラナ科の葉に卵を産み、幼虫はその葉を食べて成長し、蝶になれば、菜の花から菜の花へ、せっせと受粉を助けます。野菜の戦略は巧みで、もはや菜虫に食べられることも想定の上。キャベツの外側の葉は虫が食べやすいように寝かせて大きくひらいていますが、固く結球していくことで成長点は食べられることなく、しっかりと守られています。また菜虫のフンは野菜の根元にどんどん落とされていき、葉から吸収したリン酸を土に還す役割も果たしているようです。

蝶以外では、アブラナ科を好むカメムシがいます。名前はナガメ(菜亀)。幼虫、成虫ともにアブラナ科を食する唯一のカメムシで、赤と黒の鮮やかなボディです。うちの田んぼの常連で、水口の周辺に自生するクレソンの葉の上でよくみかけます。クレソンは水辺の植物ですが、アブラナ科です。

ナガメ(菜亀)

蛾の仲間では、コナガ(小菜蛾)やヨトウガ(夜盗蛾)だけがアブラナ科の葉を食べることができます。いずれも幼体は青虫です。畑の代表的な害虫として知られていますが、アブラナ科を食べられる虫たちはこれくらいで、ごく少ないのです。

モンシロチョウを始めとする青虫には天敵がたくさんいます。青虫は毒もなければトゲもなく、鳥にとってもご馳走ですし、カエル、クモ、カマキリ、アシナガバチやジガバチなど、狩りバチたちの格好のエサになっています。

なかなか天敵が多いモンシロチョウの幼虫ですが、最大の天敵はアオムシコマユバチというわずか3ミリほどの、小さな小さな寄生バチです。多くの青虫がこの寄生バチに卵を産みつけられることで、内側から少しづつ身体を食い破られて命を落とします。

最終的にモンシロチョウが成虫になれるのは、わずか1割ともいわれています。蝶になるのは大変なのですね。

アブラナ科は「十字架植物」ともいわれ、十字架のような4枚の花弁が特徴です。野菜だけでなく、ナズナ、イヌガラシ、タガラシ、タネツケバナ、ムラサキハナナなどもアブラナ科ですので、畑以外の場所や市街地でモンシロチョウを大切にしたいなら、こうした野草を大事にしていただけると存続しやすくなります。

イヌガラシ(左)とムラサキハナナ(右)

最後に、私の得意料理をご紹介します。ハマグリと菜の花を蝶に見立てた潮汁(うしおじる)。題して「春の蝶」です。この季節、わが家では始終、食卓にのぼります。旬の素材を存分に楽しむひと椀。ぜひお試しください。

文責・高月美樹

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高月美樹

和暦研究家・LUNAWORKS代表 
東京・荻窪在住。和暦手帳『和暦日々是好日』の制作・発行人。好きな季節は清明と白露。『にっぽんの七十二候』『癒しの七十ニャ候』『まいにち暦生活』『にっぽんのいろ図鑑』婦人画報『和ダイアリー』監修。趣味は群馬県川場村での田んぼ生活、植物と虫の生態系、ミツバチ研究など。

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