立冬 11月7~21日 十月節〈冬の気立ち初めて、いよいよ冷ゆればなり。『暦便覧』〉
マッチを擦ったら
立冬となりました。暦では冬を迎えたことになります。冬の初めの節の立冬は、そろそろ冬支度を、という時季です。陽射しも薄くなって、日が暮れるのもグンと早くなってきます。暗くなる時間が日に日に早くなると、どこか心寂しく感じるのもたしかです。
が、目を転じれば、まわりで木々の葉が色づいています。赤、黄、橙に染まった木の葉の美しさを愛でるのは今。足元では草紅葉も見られます。最後に色鮮やかさを見せて、そのあと冬枯れになる自然の不思議。この彩のギフトを、今年もしっかり見届けたいものです。
そんな立冬は、「炉開き」の季節でもあります。初めて炉に火を入れる時節。温かい部屋にこもる幸福感とともに、炬燵や火鉢に、赤く熾(おこ)った炭を運ぶ様子を思い浮かべます。今なら一般的には、空調のスイッチをオンにして暖房するイメージでしょうか。
空調と同時に、ストーブを焚き始めるのもこのころです。石油ストーブに薪ストーブ、ストーブによっては点火にマッチが必要となります。ガスライターもありますが、なぜか火のつきはマッチの方がスムーズなのは、気のせいなのか本当なのか。
細くて短いマッチの軸は、頭に火薬がついています。その頭を、箱の脇の「側薬」に擦りつけると、その摩擦で火がつく仕組み。マッチに火がつくときの硫黄の匂いは、どこか懐かしく温かさを感じさせてくれます。
昔ながらの徳用マッチやお店のマッチ。マッチ自体をなかなか見かけなくなりましたが、それでもやはり使ってみると、その魅力を実感します。箱の中にお行儀よく丸い頭を揃え、整列して入っているマッチの軸。それを見ただけでも可愛らしくてうれしくなります。「マッチ箱」という言葉さえ愛おしく。
マッチの会社が作るブランドラベルはクラシックな美しさがあって、空になってもなかなかマッチ箱を処分できません。以前はどこの喫茶店でも食堂でも、お店の名前と電話番号が記されたマッチを置いてありました。このマッチ箱にはまた、興味深いものがたくさん。
これから毎日ストーブをつけるたびに、マッチを擦ってお世話になります。マッチ箱をじっと見ながら。
平野恵理子
イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。
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