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花鳥でめぐる二十四節気/穀雨こくう

二十四節気と七十二候 2025.04.20

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◎穀雨 4月20~5月4日   「ヤマブキとイカル」

煙るような春の雨、百穀を潤す慈雨の季節、穀雨です。長雨になることもしばしばで、それは「菜種梅雨」と呼ばれます。晩春の雨は温かくしっとり。種蒔きに絶好の季節です。

さて、そんな穀雨のころに咲く花というと、まずヤマブキを思い出します。明るく暖かな黄色、まさに「山吹色」の花。枝分かれした緑色の茎に数多く花を咲かせて、それは見事です。見る方もこの花を見ると幸福感に包まれます。

一重の花はシンプルで愛らしく、ヤマブキの代表選手といえましょう。とはいえ、八重咲のふっくらした花もまた魅力的です。八重咲のヤマブキで思い出すのは、この歌です。

ななへ八重はなはさけども山吹のみのひとつだになきぞかなしき

ヤマブキは、七重八重と花は咲くけれど、実が一つもならず悲しいことです。とのことですが、これは太田道灌をめぐる、よく知られた故事に出てくる歌。

鷹狩りに出た武将の太田道灌が雨に降られ、通りがかりの家で雨具の蓑を貸してもらえないかと尋ねたそうです。すると、その家から出てきた若い娘が道灌にヤマブキの花をひと枝差し出しながら、さきほどの歌を申し述べたのだそう。

娘は「お貸しする蓑がなく申し訳ない」ということを、「みのひとつだになきぞかなしき」と駄洒落で返したのですね。昨今はダジャレのことを「親父ギャグ」などといって蔑む風潮がありますが、ダジャレこそ日本の誇る言葉遊びの伝統文化。娘、素晴らしい。娘の家は、一説によると今の東京高田馬場であったとか。

ただこの歌は娘のオリジナルではなく、『後拾遺和歌集』にある兼明親王によるものといいます。それでもこの歌を咄嗟に出してヤマブキのひと枝を差し出す切り返しはなかなかのものです。道灌はこの洒落がわからず、このときはプンプン怒って帰ってしまったとか。

一本取られた道灌さま。道灌が降り込められたのも、やはり穀雨の節の雨だったでしょうか。この様子を、山吹色の嘴が美しいイカルのカップルが、そっと見ていたかもしれませんね。

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平野恵理子

イラストレーター、エッセイスト
1961年静岡県生まれ。著書に『五十八歳、山の家で猫と暮らす』『歳時記おしながき』『こんな、季節の味ばなし』ほか多数。好きな季節は、季節の変わり目。現在は八ヶ岳南麓在住。

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