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イカル

旬のもの 2024.06.12

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
今回は大きな黄色のくちばしがチャームポイントのイカルを紹介します。

私にとってイカルは思い出がある鳥なんです。それは中学生の時、確か6月の初めだったと思います。校庭での体育の授業が終わり、教室に戻るときに校舎脇の大木のてっぺん付近から聞き慣れない鳥の鳴き声が聞こえてきました。

「キィーコ キー、キィーコ キー」

当時の私は既にバードウォッチングをしていたのですが、こんな鳥の声は聞いたことがありません。しばらく立ち止まって、鳴いている鳥を見つけようしていたら、友達や先生も集まってきて、いったい何の鳥か質問されました。しかし、姿を確認しようにも高い木の上にいて見えないのです。そのうち鳴き声が「月、星、日」と聞こえるように思えて、これはもしかしたらサンコウチョウではないかと胸が躍りました。しかし、サンコウチョウは暗い森の中にいる鳥。大木のてっぺんにとまって鳴くようなことはありません。けっきょく正体不明の謎の鳥のままで終了。それから1年後に鳥の鳴き声のカセットテープを手に入れ、ようやくイカルの声であることがわかったのでした。

さて、そのイカル、大きさは23cmほどで、中国東北部やロシア・ウスリー地方と日本の比較的狭い範囲に分布する小鳥です。北海道や東北北部では夏鳥で、それ以南の九州までの地域では一年中見られます。平地から山地の森に棲んでいて、高い山で出会うことはあまりありません。

イカルといえば、巨大な黄色いくちばし。ここまで大きなくちばしの鳥はそうそういません。いったい何故こんな形をしているのか。それは堅い種を割るためです。イカルの主な食べものは植物の種。太いくちばしには大きな筋肉がつながっていて、噛む力は一説によると50kgにもなるとか。そんなパワーあふれるくちばしで種を挟み、いとも簡単に「パチン!」と割って食べてしまうのです。ですから、イカルが群れで種を食べていると、ポリポリパリパリとそれはそれは賑やか。森の中が種を食べる音で満ちあふれるのです。

ちなみに鳥のくちばしって、黄色いイメージがありませんか。鳥の絵を描いてくださいと言うと、たいていくちばしは黄色く塗られます。ところが実際には、黄色いくちばしの鳥は少数派。多くは黒とか茶色の地味な色をしている鳥がほとんどなんです。その点このイカルは、鮮やかな黄色のくちばしを持っている数少ない鳥の一つといえるでしょう。

姿がユニークなイカルですが、前述したように鳴き声も特徴的な鳥です。「キィーコキー」や「キキコキキコ キー」と聞こえる大きな声で鳴きます。この声が聞こえるのは、春先からですが、一番の最盛期は5月から6月にかけてですからちょうど今頃。この時期はイカルの繁殖期にあたり、求愛や縄張り宣言のために大きな声で鳴いて周知しているわけです。

頻繁に鳴く時期がちょうど梅雨に当たるため、ある地方ではこの鳥が鳴くと雨が降ると言われています。鳴き声を「簔、傘、着い」と聞きなし、この鳥が鳴き出したら、雨が降るから簔と傘を用意したほうが良いとされたそうです。確かに、私が中学生の時に聞いたイカルの時も、空はどんよりした雲に覆われていた記憶があります。鳥の声で天気予報をするなんて、なんだか風情があって素敵な感じがします。

鳴き声が聞こえる時期のイカルはつがいで暮らしていて、群れで見ることはありません。ところが子育てが終わり、秋になると鳥たちが集まってきて群れの暮らしにシフトします。そんな群れは平地にもあらわれ、時には300羽ほどの大群になることがあります。私は今年の2月に河川敷の公園でそんな群れに遭遇。なんだか一生分のイカルに出会えた気がして、その日の夜は興奮してなかなか寝付けませんでした。そのときの種を食べるポリポリパリパリの音が未だに頭に残っています。

写真提供:柴田佳秀

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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