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りんご

旬のもの 2020.10.12

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昼間にも少し肌寒い風が吹くようになりました。
近所から香ってくる金木犀の香りに、秋が深まっていく様を感じている料理人の庄本彩美です。
本日は「りんご」のお話。

りんごの季節がきた。私は王道の「サンふじ」が好きだ。
皮が真紅に色づいていて、ツヤが美しい。りんごを真上から見ると、芯に向かって吸い込まれそうな小宇宙を見ているようで、いつも惚れ惚れしてしまう。

「果物といえばりんご」と答える方も多いだろう。
優しい味で赤ちゃんからお年寄りまで喜ばれる上に、りんごは国内だけでも約2000種あると言われ、その甘さや酸っぱさ、さらに食感も様々だ。自分の好みのりんごを見つけられることも、多くの人に親しまれている理由ではなかろうか。

以前、大阪の駅で「カットりんごの自動販売機」を見かけた時には驚いた。くし切りされたりんごが小包装され、袋越しにも蜜が入っているのが見えた。シャキッとした食感と溢れる果汁を想像し、ちょっと買ってみようかと手が伸びてしまった。海外では小ぶりのりんごが多いので、カットの手間なく、小腹が空いたら丸かじりしながら歩く人も多いという。

りんごの旬は、品種にもよるが10〜12月にかけて。と言っても、今やりんごは一年を通して店頭に並ぶ。
りんごは収穫後も、個体そのものが呼吸をするが、空気中の酸素・二酸化炭素・窒素を調整して抑える貯蔵法を活用することで、この呼吸を抑えりんごを深い休眠状態にして、鮮度を落とさずに保存しているんだという。
そのお陰で、私たちは年中美味しいりんごを食べることが出来ている。

そんな、人間にとって身近な果物の一つであるりんご。
諸説あるが、アダムとイヴが最初に食べた「禁断の果実」はりんごだとも言われる。西洋画などには、度々りんごの絵が描かれている。

面白いのが、英語の“apple”は古い英語(大体西暦450年~1100年)においては「すべての果実」を指していたらしい。1700年頃においては「berry(果皮が柔らかく汁気の多い果実)以外のnutsを含んだ全ての果実」が“apple”の意味だったと言われているそうだ。

また、りんごには花言葉があるが、花(優先)だけでなく、木(名誉)や実(誘惑)と、別々に花言葉が付く珍しい果物でもある。それぞれギリシア神話や、旧約聖書などから由来が来ていて、遥か昔から人々と関わりがあったことが伺える。

りんごは、果物としてそのまま食べるだけではなく、お菓子や料理にも使う事ができる。
様々な料理があるなか、りんごの事を考えると、小さいころに食べた「すりりんご」を鮮明に思い出す。
それは、風邪を引いた時にだけ出てくる、ちょっと特別なものだった。
布団から青い空を眺めつつ、同時刻に学校で流れる時間のことを考えながら食べるりんごは、なんだか不思議な味がした。

大人になってから、すりりんごを作ってみようかと思っても、ついカットしたままパクッと食べてしまう。あの「する」という行為が意外と手間であることに、大きくなってから気がついた。
母が台所でりんごを剥き、喉越しが良いようにとすって、見た目もひんやりとしたガラスの皿に盛り付け、食欲が無くても食べやすいように小さなスプーンを添えてくれる様子を、今は鮮明に想像できる。

沢山の食材を使って豪華に作るだけでなく、誰かのことを思って切ったり盛り付けたりしたものも、立派な料理だと思う。そして、それは食べた人の心と体にじんわりと広がっていく。
「りんご」は、そんな「料理の根っこ」を思い出させてくれる存在でもあるのだ。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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