こんにちは。料理人の庄本彩美です。今日は和食文化を代表する魚であるブリ、中でも寒ブリについてのお話です。
日本海のブリは、春に暖流に乗って成長しながら北海道付近まで来遊し、秋ごろ越冬と産卵のためにエサを食べつつ日本海を南下する。この11月末~2月はじめまでの時期に水揚げされる丸太のように肥えたものを「寒ブリ」と呼ぶ。
特に中間地点である富山湾は、能登半島の出っ張りでブリが足止めされやすく、腹から背中までサシの入った最高の状態のブリがとれるという。重さ6キロ以上で脂ののったブリが安定して出荷できる見通しが立つと「ひみ寒ブリ宣言」なるものが出され、証明書と共に統一された青箱に入れて出回るそうだ。
その「氷見(ひみ)の寒ブリ」を食べに行こうよ!と友人に誘われたことがある。京都からサンダーバードに乗り込み、私たちは富山県へ向かった。
しかし、「キング・オブ・ブリ」を心待ちにする友人の横で、私の足は少し重かった。
私は正直、ブリが好きではない。
ブリと言えば出世魚で有名だが、実家ではブリの出世前のハマチがよく刺身で出てきた。私はあの脂とコリっとした食感が苦手だった。醤油にぱっと広がるハマチの脂は、私の食欲を減退させた。どちらかと言えば、淡白な白身魚の方が好きだった。
初めて降り立つ北陸はどんよりとした空で、見たかった立山連峰も見えない。荒々しい日本海は、生まれ育った瀬戸内海とは全く異なり、本当に同じ海なのかと疑う程だった。吹き荒れる風にめげそうになりつつ、予約した店へ駆け足で向かった。
暖かい店内で縮こまった体がほっとしたのも束の間、運ばれてきたブリしゃぶに私はギョッとした。大きく切られた切り身、そして脂のサシ具合がすごい。私の知るハマチと比べ物にならない。
今まで見たことのない姿にたじろぐも、折角の富山旅行だ。しゃぶしゃぶなら、あの苦手な脂も落とせるだろう。
ええい!と意を決して切り身を箸ですくい、おそるおそる黄金色の出汁につけてみると、サアッと表面の色が変わった。ポン酢につけて口に運ぶと、ふわっとブリの身がほどけた。
「うわあ…… !?お、美味しい!!」
ブリの余分な脂肪が落ちつつ、残った脂が旨味となっていてほんのりと甘い。ポン酢の酸味がキュッと身をほどよく締めているようで、柔らかい脂と締まった身の口当たりが心地よい。その味と食感に私の心は釘づけになった。
「次はもっとサッとくぐらせて…… 、生でも食べてみようかしら?」とパクパクと食は進み、きっちり一人前食べ切ってしまった。
苦手なものが好きになる瞬間は、まるで視界がパアッと明るく広がるようだ。
この旅行のおかげで、私のブリへの苦手意識は払拭された。また、食材の選び方や調理方法を変えることで、より美味しいものへ変化させられるのが、料理の面白さでもあると改めて感じた。
北陸の沿岸では、11月の終わり頃から強い風と雷が激しく吹き荒れる日があり、その頃ブリが回遊してくるため、その雷を「鰤起こし」というらしい。
漁師にとってこの雷がブリ漁の始まりの合図であり、人々には冬の到来を告げるものだという。
あの時の天候も「鰤起こし」が来たからこその冬の風景なのだと知ると、また北陸の地へ行って寒ブリを堪能したいものだと、思いを馳せるのであった。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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