こんにちは。俳人の森乃おとです。
春を告げる風が吹き、そろそろ桜の花が満開となる季節となりました。桜の花びらが舞う中で、仲良く並んだヒヤシンスとチューリップもまた、華やかに花を開いています。
近代に西欧から渡来したこの2つの花は、すっかり日本の春の風物詩となりました。けれども、今なお異国への憧れを濃厚に漂わせているように思えます。今回はそのうち、とりわけ香りの良さを愛されるヒヤシンスをご紹介します。
チューリップと同じフランス船に乗って渡来
ヒヤシンスはキジカクシ科ツルボ亜科ヒヤシンス属。以前はチューリップと同じユリ科に分類されていて、ともに球根性の多年草です。
秋に球根を植え、冬の寒さに刺激されて発芽し、3~4月に花をつけるという生活サイクルが共通しているので、よく並んで植えられています。
原産地は地中海東部沿岸から西南アジアにかけて。これもチューリップと同じです。ともに16世紀にトルコからオランダに伝わり、西欧各国で盛んに品種改良されました。
日本には1863年(文久3年)、同じフランス船に乗って渡って来ました。その5年後に起きるのが明治維新。ヒヤシンスとチューリップは、まさに「文明開化」の時代の到来を象徴する花なのです。
ヒヤシンスは、「風信子」「飛信子」と書くこともあります。中国名ではなく、日本への渡来時に発音をなぞって当てられた漢字です。
水にじむごと 夜が来て ヒヤシンス 岡本眸(おかもと・ひとみ)
ヒヤシンスは冬の初めに発芽すると、1本の太い花茎を垂直に伸ばします。背丈は20cmほど。長さ1~2㎝のラッパ形の6弁の小花が数十個、花茎を包むように咲きます。原種の花の色は深い青紫色ですが、品種改良の結果、赤、ピンク、白、黄とさまざまな花色があります。一番香りが良いのは、原種に近い青紫色の花だそうです。
ヒヤシンスは水栽培でも簡単に育てることができます。透明な容器で育てると、球根から白いひげ根が美しく伸びる様子も楽しめます。
ヒヤシンスは俳句の世界では春の季語。岡本眸(1928 ~2018)の句は、室内で水栽培されている春の夜のヒヤシンスを詠んだものかもしれません。
近年は、ヒヤシンスの原種を一回り小さくしたような、近縁種のムスカリ(キジカクシ科ツルボ亜科ムスカリ属)の人気が高まり、ヒヤシンスよりもよく目にするようになりました。
ヒヤシンスの花言葉は「悲しみを超えた愛」
ヒヤシンスの花言葉は、ギリシャ神話の太陽神アポロンと美青年ヒュアキントスの悲劇の物語に由来します。
ヒュアキントスはアポロンと深く愛し合っていました。ある日、円盤投げをして遊んでいる二人を見かけたのが、元恋人の西風の神ゼフュロス。ゼフュロスは嫉妬に駆られ、アポロンが投げ上げた円盤に息を吹きつけました。円盤は軌道を外れ、ヒュアキントスの額を直撃しました。医術の神でもあるアポロンにも、流れ出す血を止めることはできません。
アポロンは悲嘆に暮れて誓います。「お前を美しい花にして、永遠に名前を残そう」。すると、ヒュアキントスの血を吸った地面から、青ざめたヒヤシンスの花が生えてきたといいます。
花言葉は、ほかに「スポーツ」「ゲーム」「勝負」。いずれもアポロンとヒュアキントスが遊ぶ様子からの連想です。
ヒヤシンス 薄紫に咲きにけり はじめて心 顫(ふる)ひそめし日
北原白秋(きたはら・はくしゅう)
初恋の繊細なゆらめきを詠んだ、北原白秋の有名な短歌です。第一歌集『桐の花』(1913=大正2年刊行)に収められていて、一大スキャンダルとなった恋愛事件の直後につくられました。
相手は隣家の人妻松下俊子。当時28歳の白秋は俊子の夫から姦通罪で告訴され、示談が成立するまでの2週間、未決監に収監されました。「桐の花事件」と呼ばれるこの事件の後、白秋は俊子と結ばれますが、1年余りで離婚しています。
同時代の作家・芥川龍之介にも
という歌があります。
ヒヤシンスの花は、どこか悲しい恋の面影をにじませているのかもしれません。
ヒヤシンス(風信子、飛信子)
学名Hyacinthus orientalis
英語名common hyacinth
キジカクシ科ツルボ亜科ヒヤシンス属の球根性多年草。原産地は地中海東部、西アジア。花期は3~4月。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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