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クルマエビ

旬のもの 2021.05.30

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「姿・伊勢海老、味・車海老」ともいわれるように、海老の中で最も美味とされる「車海老」についてのお話です。

今月の記事のテーマは「車海老」だと担当者さんから聞いて、私は少し驚いた。
お弁当作りを生業にしている私にとって車海老といえば、12月の「おせち」で専ら活躍するからだ。

天然の車海老の旬は6〜8月ということを初めて知った。冬の車海老は養殖ものだという。
車海老は鮮度が命といわれ、死ぬと急速に傷んで味が落ちてしまう。10〜15度が適温で冷蔵庫内では寒くて死んでしまう繊細な海老だ。
天然物はとても高級で、生簀などの管理の問題で活きを維持するのが難しい。おせちで必ず売れると分かっている年末くらいしかスーパーではお目にかかれない。

鮮度といえば、私は車海老に少しばかり苦い思い出がある。それは、私がまだ料理の仕事を始めたばかりの年末のこと。
この日私は、中央市場の魚屋で小さめの段ボールを2箱買って帰った。
キッチンでおせちの仕込みを始めるべく、一箱開けてみた。一面におがくずが敷き詰められていて、何も見えない。この中に車海老が20匹近く入っているはずなのだが。

ちょいちょいっとおがくずをよけてみると、1匹の車海老がひょっこり顔を出した。さらに払うと、見えた、まっすぐ綺麗に車海老たちが整列している。
透明な体に「くまどり」と呼ばれる縞模様が描かれている。海老の体を丸めるとその模様が放射状になって車輪のようになるから「車海老」と呼ばれるそうだ。青と黄色の尾びれの鮮やかさに目を見張るが、全体的に日本らしさを感じる姿にまとまっている。なんと美しいことか。
あまりにもお行儀よく並んでいるので「水揚げされて、流石に少し弱っているのかな」と思いつつ、車海老を取り出そうと手を伸ばした。

そんな海老への心配は一瞬で何処かへ。私が掴んだ途端、もの凄い勢いで車海老は体を動かしたのだ!

写真提供:庄本彩美

その強さに耐えられず、私は「ギャッ」と手を離してしまい、シンクに海老を落としてしまった。先程のおしとやかな姿なんてどこにもない。ビチビチと跳ね回る車海老に「ひょええー」と怖気付いてどうにも掴めない。
やっとこ氷水のタッパーへ移し、次の海老と、おがくずをまき散らしながら格闘。そんなことをしている間にも、タッパーから先程の車海老がぽーんっと飛び出してきてしまう。あっちこっちで海老が踊り出し、キッチンはパニックになってしまった。
プロが持つと、元気に泳いでいた海老も静かに手にちょこんと乗るらしい。私の恐怖という雑念が海老に伝わっていたのだろうか…。

このように活きの良い車海老が手に入れられるのは、箱にいっぱいに詰められた「おがくず」が一役買っているという。
海老はエラの中に水分が残っていれば、呼吸をすることができる。また車海老は海の中では泥や砂の中にもぐって暮らしている。おがくずはとても保湿性が高く、これに包まれることによって自然環境と近い状態になり、数日間は生きていられるというのだ。おがくずは、通気性、保湿、断熱性に優れているだけでなく、海老が傷つかないための緩衝材となる。また運ぶのも軽い。
氷室での氷の保管方法から転用されているのだと思われるが、「車海老におがくずが良いかも」と思いついた人は、心からすごいなあと思う。

まずは鮮度が第一だともいわれる車海老。
配送技術などの発達と、昔ながらの知恵のおかげで私たちは新鮮な車海老をお取り寄せすることもできる。
大切な人へのギフトや、ちょっとした贅沢に、古今の知恵が詰まった車海老をいただいてみるのはどうだろうか。
活きの良さがちょっと怖い人には、水揚げ後に瞬間冷凍された鮮度バツグンの車海老がオススメです。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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