こんにちは。料理人の庄本彩美です。今回は真夏の食材、ゴーヤーのお話です。
子どもも大人も苦手な野菜のトップに君臨する「ゴーヤー」。
その理由はゴーヤーが持つ「苦味」からだろう。
人間が感じる5つの基本味のうち苦味は、本来は毒のあるものを示し、生体防御を判断するために必要不可欠なんだそう。人間の舌は、苦味を甘味や塩味と比べて約1000倍も感じやすいといわれている。
だから子どもの頃ゴーヤーが苦手だったのは、当たり前の反応だったのだ。
ゴーヤーを全国に広めたと言われる朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」の放送以降、私の実家の畑でも見かけるようになった。しかし、いまいち調理方法が分からなかったのか「ゴーヤーチャンプル」ばかり食卓にならんでいた気がする。油や卵が絡んで多少苦味が軽減されていたが、やはり子どもの舌には合わず、好んで口にすることはなかった。
学生時代に、実家から届いたゴーヤーを切ったところ、真っ赤な種とゼリー状ものが出てきて慌てて捨ててしまったことがある。あれは熟した状態のものなんだそう。
いつも見ている白い種とワタのものは、熟す前のゴーヤーなのだ。
ゴーヤーに限らず、色んな果物は未熟なうちは苦いものが多い。苦くすることで、熟すまで動物に食べられないようにしている。
熟れたゴーヤーの種はメロンやミカンのような味わいとも言われているらしいので、一度味わってみる価値はありそうだ。
あんなに苦手だったゴーヤー。どうして食べられるようになったのだろうか。
今となってはスーパーで平積みされ始めたゴーヤーを見かけると、立ち止まってしまう。手に取ると、舌がゴーヤーチャンプルを食べる準備を始め、たちまち夜のおかずは変更になるほど「夏の定番」になっている。
調べてみると、これは慣れやにストレスによるものらしい。
子どものころは苦手でも、これは有害なものではないという経験を重ねて「苦味」を美味しいと感じるようになるそうだ。
また、ストレスや疲れは味覚を鈍くし、普段より苦味が感じにくくなるので、苦くても食べやすくなるそう。
さらに苦味には、疲れた味覚をリセット&リフレッシュを促す効果があり、苦かったという記憶を変化させるといわれている。
私自身がゴーヤーを欲するようになり、その苦味が仕事の疲れや、暑い夏の疲れを取ってくれていたのだ。
メリハリがあることが、私たちの生活を面白くするのなら、食事もきっとそうだ。「甘い」も「苦い」も知っているから、どちらも美味しいと感じる。
ゴーヤーの苦味は、私たちの食生活を豊かにする「大人の味」なのかもしれない。
次はいつもより太めに切って、苦味を楽しむゴーヤーチャンプルを作ってみるのもいいな、なんて考えているうちに、今日の夜ごはんもゴーヤーになってしまいそうになるのであった。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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