こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は、和食文化の象徴とも言える「鮭」、中でも「秋鮭」についてのお話です。
年中お店に並び、日本の食卓に欠かせない魚の一つである「鮭」。私にとって朝ごはんと言えば、ツヤツヤの白米に味噌汁、そして焼き鮭が並ぶ食卓を思い浮かべる。起き抜けに見るピンク色の身は、目を覚まさせ、1日の始まりを告げるような存在である。
しかし子どもながらに不思議だったのは、それぞれの店で出てくる焼き鮭の色や味が微妙に違うことだった。
後に、鮭にも様々な種類があるということを知ったが、この区別に関しては未だ混乱してしまう。
スーパーでよく見かけるのは、銀鮭、紅鮭、大西洋鮭(アトランティックサーモン)、トラウトサーモンなどだ。そしてこの時期には、秋鮭と書かれたものを見つけることができる。
秋鮭とは、銀鮭や紅鮭でもなく「白鮭」のことを指す。これはどの鮭にも共通することだが、鮭はその身の色の割に、白身魚である。あの赤は、白身魚特有の速筋で、エビやカニを餌にしているうちに赤くなっていくという。ちなみに産卵が近づいたメスは、卵に赤い色素が移ってしまうため、本当に身が白いこともあるそうだ。
一般的に、日本で水揚げされる鮭は「白鮭」と呼ばれる。白鮭はほかの種類の鮭と比べて身の色が比較的薄いことからそう呼ばれている。銀鮭や紅鮭は日本の川には上らない。
白鮭でオホーツク海などを2~8年間回遊したあと、産卵シーズンの9~11月に東北・北海道沿岸に寄ってきたものを「秋鮭」「秋味」と呼ぶ。
昔、北海道では秋になると、川面も川底も、帰ってきた鮭で埋め尽くされるほどだったというから、その漁獲量はとてつもない単位だったに違いない。
これに対して、5〜8月頃に間違えて日本沿岸に寄って来た白鮭は「時鮭(とき知らず)」と呼ばれている。時鮭は産卵前で脂がのっているのが特徴であり、春から初夏にかけて出回る。漁獲量が少なく貴重なため、高級品となっている。
旬というのは、収穫量のピークの時や、味が美味しい時期など違った意味で使われることがあるが、鮭の旬は春と秋だと言われている。
日本の鮭漁と深い関係のあるアイヌの人々は、秋の恵みをもたらす鮭の訪れを待ちわびていたという。さらに、海からのぼってくるその姿は異界より訪れる神を連想させ、信仰の対象ともなった。生き物は神が肉や皮を持って人の世界に来てくれた姿だと考えていたため、「カムイチェㇷ゚=神の魚」や「シペ=本当の食べ物」と称して、敬っていたという。
余すことなく使い切ることが、神への最高の礼儀と考えられ、アイヌの人々は鮭を食料として、皮を生活用具に加工したり、交易品として利用したりしていたそうだ。
今でも白子、筋子、イクラに始まり、腎臓、胃の塩辛やとば、山漬けや荒巻など様々な加工品となって愛され続けている。
鮭にまつわる品は、アイヌの人々の生き物に対する敬意の念から生まれたものなのだろう。
現在では全ての部分をいただくという形で、敬意の念を払うことは難しい。しかし私たちが「秋鮭」「秋味」や「時鮭」と呼んで旬の食材を楽しむ時、生き物を敬い、いただく形の一つとなっているのではないだろうか。
秋鮭の特徴は、産卵前のため身が引き締まっている。身があっさりしているので、そのまま焼いて食べるより、バターを使ったホイル焼きやムニエル、フライといった料理に向くそうで、様々な料理に挑戦できそうだ。
ちなみに「秋味」の名は、アイヌ語の「アキアチェㇷ゚」=「秋の魚」の転訛だともいわれている。昔の人々の思いの乗った言葉に想いを馳せながら、今年は秋鮭をいただいてみようと思う。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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