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シチュー

旬のもの 2022.01.12

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こんにちは、料理人の庄本彩美です。
年が明けてからどのように過ごされていますか?寒さも極まってきましたので、体調には気をつけてお過ごしください。今日は冬になると食べたくなる「シチュー」についてのお話です。

夏は暑くて火の前に立つのを避けていたのに、ひとたび寒さを感じると、煮込み料理が恋しくなる。 そんなときに私が食べたくなるのは「クリームシチュー」だ。

去年の秋、冬の気配を感じたときにまずクリームシチューを作った。「秋の食材を使おう。そうは言っても真冬ではないのでコクは控え目に。おでんもいいけど、もっと寒くなってから作ろう」そんな事を考えながら台所に立った覚えがある。

「寒い=シチューを食べる」というのが、自分の中で定着しているらしい。寒空の下、灯りの付いた家では、お母さんが台所で温かいシチューを煮込んでいて、一家団欒の食卓を…という情景は、小さい頃から見てきたテレビCMも、大いに影響している気がする。

寒さで縮こまった心や身体をほどいてくれるような温かいイメージを、シチューに対して持つ人も多いだろう。

「シチュー」とは、野菜や肉、魚介類を出汁やソースで煮込んだ「煮込み料理の総称」で「煮る」という意味に由来している。ちなみに、クリームシチューは日本で独自の発展を遂げたシチューであり、戦後から広まったのだそうだ。世界には様々なシチューがあり、各地の持ち味が生かされている。

この「煮込み」という調理方法。これは時間をたっぷりかけることが必要だ。「煮る」と「煮込む」では、意味が違うという。

詳しく調べてみると、「煮る」とは、食品に火が通るだけでなく、水に加えた調味料が食品の中にしみ込んだ状態のことを指す。
「煮込む」とは、さらに食品の成分を水に溶け出させて渾然一体とし、更にそれらを再び食品に吸収させる・・という過程をくり返すことで、「鍋の中の水(汁やソース)と食品との風味のバランスを最適化する」ことと書かれている。

急いで高温で煮てしまうと、脂の乗った肉でも水分が抜けて硬くなり、風味が緩やかに混ざり合うことは難しい。
ゆっくりと熱が対流する鍋の中で、時間をかけて肉や野菜の緊張がほぐれたとき、それぞれの味が重なり、掛け合いながら煮込み料理が生まれるのだ。

冬になるとシチューが恋しくなるのは、私たちも煮込み料理のように緩まり、優しい時間を過ごしたいと思うからからもしれない。
料理にスピードアップが求められがちな現代。煮込み料理は贅沢なのかもしれないが、寒い冬こそ、おこもりを決めて、煮込み料理と一緒に静かなひとときを過ごすのも良いだろう。

また、煮込み料理でしばしばついてくる言葉に、「じっくりことこと」というものがある。

この「ことこと」という言葉は、すこし前までは、笑うときの形容にも使われていたそうだ。辞書によっては「思わずうれしくなって小さな声で笑う様」と書かれている。川端康成の小説『伊豆の踊子』の中でも、「ことこと笑う」という表現が出てくる。「ことこと」に思いを馳せると、鍋の火加減も自ずと気にかかってくるものだ。

コンロの前に立ち、優しいまなざしで鍋を覗き込んだとき、きっとあなたも、野菜たちも、ことこと微笑んでいるだろう。

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庄本彩美

料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。

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