漬物男子、田中友規です。
今朝は、昨日の冷やご飯と漬物でお茶漬け、と決めていたので
ほうじ茶を入れながら冷蔵庫を開けてみると、七種類のお漬物がすやすや発酵中。
中にはいつ漬けたんだっけ?というものもあり、一通り全部味見することに。
漬物のいいところは、時間の経過で風味や食感が日々変化していくことにあります。
強い塩分に守られて腐敗せず、その中でも活動できる乳酸菌のおかげで漬物に酸味が加わり、独特の美味しさが構成されていきます。
浸かりすぎた漬物の酸味が苦手・・・という人もおりますが
僕はむしろ古くなって癖のある漬物に目がありません。
子メロン、茄子、福神漬け、柴漬、すぐき、青唐辛子、小玉ねぎ。
これだけ種類があったら「覚弥の香々(かくやのこうこ)」がいいですね。
諸説あるようですが、徳川家康おかかえの料理人岩下覚弥が考案した、
残った古漬を細かく刻んで生姜醤油で味を整えたもの。
青紫蘇や胡麻なんかもよく合います。
とんとんと朝の台所に包丁の音を響かせて、
刻んだ漬物をちょっとつまみながら、ほうじ茶をすする。
細切りにした生姜を加え、醤油を垂らして完成。
ツンと自己主張する古漬の香りに、白いご飯が瞬時に消えてしまうのがもう分かる。
さらっとあさげを済ませ、今日は千枚漬けの仕込み。
材料は、色が綺麗に仕上がる、と味吉兆の主人に教えてもらった利尻昆布、 赤唐辛子、聖護院かぶら、塩、甘酢。
そういえば、かぶらに添えてある緑の葉はどうするんだっけ?と調べてみるとあれはかぶらの葉ではなく、壬生菜であることが発覚。正月の時期にちなんで、雪のように白い千枚漬けに、壬生菜を青松に見立てたというのだから実に縁起のいい漬物だ。
かぶらを丸く型抜きし、スライサーで極薄にする。塩を丁寧に馴染ませて甘酢と合わせて重石をかければ、3日くらいで味が馴染みます。
壬生菜漬は、大御所の千枚漬けの前では脇役だが、それこそ京都を代表するお漬物。
しゃくしゃくとした食感が小気味よく、いくらでも食べられてしまう上品さだ。
ふと、「壬生菜に古漬はないのだろうか」と思い付く。
きっと酸味と渋味が増して美味いはず。
調べてみると、灯台下暗し!
近所の漬物屋にあることがわかり、漬物欲の赴くままに車で向かった。
あった!
発色の良い緑が、茶色くすっかり落ち着いて一仕事終えたような風格さえある、 壬生菜のひね漬。
古漬を生姜と醤油で味付けしているとのことで、覚弥の香々とやはり同じだ。
自宅でいただいてみると、青菜の時とは違った香りと食感があり、まさに壬生菜の壮年期。
時間を経て、また一段と深みを増す壬生菜の懐の深さにすっかり惚れ込んでしまった。
千枚漬けに続き、さっそく壬生菜漬の仕込み。
ふたつの漬物瓶の蓋を、きゅっと締めた。
2022年がどんな年になるかわかりませんが、
古漬となって再会できる、小さな楽しみを瓶に込めて。
田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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