こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「あさりの酒蒸し」についてのお話です。
人は食べる時、味だけではなく周辺の要素からも美味しさを受け取っている。漂ってくる匂い、お皿に盛り付けられた様子、誰と食べるのか…。その中に「音」という要素もあると私は思う。
子どもの頃、朝に台所からジューッとフライヤーの音がすれば、今日の弁当にはコロッケが入るのだと分かり、オーブンが動いていたら、ピザトーストがあるのだろうと予測ができた。今でも美味しい音の記憶として残っている。
夜は、ご飯を茶碗へ盛る手伝いをしながら、母が鍋から皿へ何をよそうのか、匂いを嗅ぎつつ、その音にも耳を傾けていた。
その中でもたまらなかったのが、あさりの殻の音だ。鍋を傾け皿に盛る時に聞こえる「カラリ」という音は、あさり以外ではあり得ない。
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調理が簡単なあさりの酒蒸しは実家の定番だった。「酒蒸し」という名前に、子ども心に大人な響きと、シンプルな美味しさをひっそり噛み締めていた料理でもある。
年中食べていた料理だったが、春には畑の春キャベツや三つ葉が入り、あさりと酒の旨味を含んだ野菜たちで、更に箸が進んだものだった。
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大人になってから北海道へ行った時のこと。
旅先でスーパーの食材を見て回るのが好きな私は、海鮮コーナーにあった、あさりに釘付けになった。
本州では見たことのない大きさのあさりが、ゴロゴロと入っている。沢山入っているのに、お手頃な値段だ。
そして、殻の様子が少し違う。私がよく知るものは、殻の表面に様々な模様があるが、このあさりには模様がない。荒い布の目のような線が大胆に入っているだけである。
調べてみると、北海道で採れるあさりは「北海あさり」と言い、見た目は違うが、分類上はこちらのあさりと変わらないという。大きいものだと4cmほどで、その大きさから「横綱あさり」とも呼ばれるそうだ。
「どんな味なんだろうか」と、すっかりあさりの口になってしまった私は、一パック買って宿泊先の友人の家へと戻った。
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作ってみたのは「あさりの酒蒸し」。パカっと開いた分厚い殻の中には、予想通り大ぶりな身がギュッと詰まっていた。匂いは、いつもの酒蒸しと同じだ。
鍋を傾けると、「ガラリ、ガラリ」と音を立てながら、あさりは皿へと移っていった。「カラリ」じゃないのか!とその大きさを音からも実感し、私はこれから出会う新たな味に、期待がむくむく高まっていった。
食べてみると、あさりの濃い旨味が口の中に広がった。噛むとギュッ、ギュッと弾力があり、食べ応えが抜群だ。北海道の食材は、その土地らしく懐が広く、のびのびと育った味のものが多いと思っているのだが、北海あさりも、まさしくその味である。私は北海道の春の味と、美味しい音をまた一つ知ったのだった。
あさりの旬は今。身が太り、旨味が強くなっている。料理をする時には、その「カラリ」という幸せな音にも、耳を傾けてみてはどうだろうか。そして北海あさりをいただく機会があった時には、そちらの音も味わってみて欲しい。
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庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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