こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「湯豆腐」についてのお話です。
「今度の休み、彼のご家族と顔合わせで湯豆腐食べてくるんだ」と会社の先輩が嬉しそうに話すのを側で聞いていた当時20代の私は、少々驚いていた。
私にとって豆腐は食卓の脇役的存在で、外食で豆腐を食べることにピンと来ていなかったのだ。「ハレの日に食べる食事は他にも沢山あるだろうに、どうして豆腐なんだろう?」と不思議に思っていた。

そんな私も京都に長く住むようになって、豆腐の魅力に徐々に気がつき始めた。京都には近所の人に愛される美味しい豆腐屋が多く存在する。また、豆腐食品には様々な種類があり、料理次第で食感が豊かな料理になる。
そして観光地へ足を伸ばすと、湯豆腐を食べられる老舗のお店も京都には多い。豆腐は仏教と深い関係にあり、精進料理の食材として昔から重宝されてきた。お寺の多い京都で歴史を重ねてきた料理なのだ。
中国から伝来した当初、湯豆腐は焼き豆腐を煮た物で、湯豆腐というよりはおでんに近い料理だったらしい。現在の湯豆腐は昆布を敷いた鍋の中に水と豆腐を入れて温め、つけ醤油やポン酢にねぎや柚子、もみじおろし、かつお節などお好みの薬味と一緒にいただく。とてもシンプルな料理だ。

ところで、この湯豆腐の際に鍋の底に敷かれる昆布。これが豆腐にとって大変重要な役割を果たしていることをご存じだろうか?
豆腐は熱を加えすぎると、滑らかな食感が変わってしまう。これは豆腐に「す」が立ってしまうためだ。
豆腐は水分をとても多く含む食品で、90%は水分でできているという。高温で加熱し続けると、豆腐の中の水分が蒸発するため、水蒸気が発生する。その水蒸気が豆腐の中で膨らみ、外に出ようとするが、加熱によって豆腐のタンパク質は固くなってしまうため、外に出ることができない。そのまま体積を膨張させ、大きな穴をあけるという。

これを防ぐために、湯豆腐の鍋の底には昆布が敷かれる。昆布が豆腐と熱との間の緩衝材となるのだ。
弱火でやさしく火を入れたり、熱伝導率が低く火の入りが柔らかい土鍋を使ったりすることも、豆腐にストレスをかけず、「す」を入りにくくするコツだという。
昆布の座布団の上にそっと豆腐を入れ、ちょうどよい温度で煮てあげる。北大路魯山人曰く、豆腐が「ぽとぽととして」くると、いい煮え加減だそう。美味しく仕上がるには、食材も心地よい環境がミソなのだ。
もちろん昆布には、豆腐の白さや風味をそのままに、上品な味付けをする役割もある。
なんと湯豆腐は、第五の味覚「うま味」に気がつくきっかけとなった料理なのだという。
湯豆腐は昆布のうま味を最大限に活かした料理なのかもしれない。

20代の頃はガツンと満足感のある料理を求めていたが、30代になってやさしい料理を欲するようになったので、今なら湯豆腐の美味しさがきっと分かるだろう。
今日は近所の美味しい豆腐屋に行ってこよう。鍋を覗き込みながら湯豆腐が温まるのを静かに待ち、ハフハフと頬張る秋の夜長を楽しんでみようと思う。


庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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