こんにちは。科学ジャーナリストの柴田です。
今回は、黒い潜水名人といわれるカワウを紹介します。
カワウは、全長82cmほどの全身がほぼ真っ黒の首が長い水鳥。翼を広げると約130cmもありますから、かなり大きな鳥ですね。アジアからヨーロッパ、オーストラリア、アフリカ、カナダ・アメリカの東海岸にかけて広く分布し、日本では、本州、四国、九州の河川や湖沼、内湾などで一年中見られる鳥です。また、北海道では夏鳥、南西諸島では冬鳥の渡り鳥です。
さて、そのカワウですが、なぜ12月が旬の鳥なのでしょうか。それは今の時期が繁殖期だからです。日本の多くの鳥は、春から夏にかけてが繁殖シーズンなのですが、カワウはちょっと変わり者。冬の今も繁殖期なのです。正確には地域によって繁殖期が異なっていて、トータルすると1年中繁殖していますが、私がよく観察する関東の繁殖コロニーでは、今頃から繁殖がみられるので、カワウの子育ては冬のイメージが強いのです。
ではなぜ、繁殖期が地域によって異なるのか、詳しいことは解明されていませんが、理由の一つとして考えられるのは、ヒナに与えるエサが魚だから。魚は、地域によって増減する季節が異なるので、魚が多く捕れる時期に合わせて子育てをする鳥が多くなるのではないかと思うのです。
繁殖期のカワウは、頭から首、脚の付け根に白い羽毛がはえ、なかなか美しい姿になります。繁殖期である今頃には、こんな美しい羽衣をまとったカワウに出会うことができるでしょう。また、他にもぜひ注目してもらいたいチャームポイントがあります。それはエメラルド色の目。こちらは繁殖期にかかわらず、一年中こんな色。あまりにもきれいな色のため、なんだか吸い込まれてしまいそうです。
とにかくカワウは潜水名人。潜る深さは平均7mで最大14.6mという記録があり、長いと1分以上も潜水することもあるそうです。泳いでいるカワウは体が沈みがちです。遠くからだと首だけしか水面から出ていないように見えることもあります。沈みがちなのは潜水がしやすいため。体が水にぷかぷかと浮いてしまっては潜るのが大変ですからね。
ところで、カワウが翼を大きく広げている姿を見たことがありませんか? じつは、濡れた羽を乾かしているのです。なぜ、そんなことをするかと言えば、これも潜水に関係しています。
普通、多くの鳥では、尾羽の付け根に尾脂腺(びしせん)という脂が分泌する部分があって、その脂を嘴で羽に塗って防水性を高めています。ところがカワウは、この尾脂腺が未発達。脂が羽毛の水をはじくと、羽毛に空気がたまって潜りにくくなってしまうから必要がないのです。でも、それだと羽毛が濡れて体温が奪われますし、飛べなくなってしまいます。そこで翼を広げて渇かすのです。潜ることを優先したために、こんな手間が必要になっちゃったんですね。
潜水するのは、もちろん魚を捕るためです。カワウの嘴は、先がカギ状に曲がっています。これで泳いでいる魚を引っかけるようにして捕らえます。単独でも優れた漁師のカワウですが、ときには共同で狩りをすることも。カワウという名前から海にはいないと思われがちですが、東京湾などの内湾には普通にいて、このような広い水面では、何羽が連携して魚の群れを追い込んで捕らえる共同作戦が見られます。ときには、数千羽ものカワウが大集結して追い込み漁を行うことがあり、その光景はあまりにも壮観すぎてあっけにとられることもあります。
ウの魚捕りといえば、鵜飼いを思い出す方も多いのではないでしょうか。ところが、鵜飼いで利用されるのはカワウとは別種のウミウのことが多いのです。ウミウは、カワウよりも体が大きくて潜水能力が上。捕る魚も大きい傾向があり、鵜飼いでは好まれます。ただ、時にはカワウをウミウの代用で使うこともありますし、中国ではカワウが鵜飼いで活躍しています。
最後に、カワウが簡単に観察できる場所をご紹介しましょう。それは東京・上野動物園内にある不忍池です。この池に浮かぶ島には、カワウの繁殖コロニーがあってたくさんの巣があります。なんだか動物園で飼われている鳥のように見えますが、立派な野鳥です。巣材をくわえて飛ぶ親鳥の様子などが観察できますので、動物園に出かけた際にはご覧になってみてはいかがでしょうか。
写真提供:柴田佳秀
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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