こんにちは。俳人の森乃おとです。
春に先駆けて黄色い花を咲かせる木には、ロウバイやマンサク、サンシュユ、レンギョウなどがあります。その中のひとつ、オウバイ(黄梅)と出合うと、ようやく長い冬に別れを告げ、明るい春の景色が目の前に広がっていくような気持ちとなり、胸がはずみます。

オウバイは、ウメという文字を含んでいますが、バラ科のウメとは全く関係がありません。ジャスミンの仲間で、モクセイ科ソケイ属(またはジャスミン属)の半つる性落葉低木。中国の北部・中部が原産地です。
旧正月ごろに花をつけることから、中国名は「迎春花」。俳句の世界では、立春 (2月4日ごろ)から啓蟄の前日(3月5日ごろ)までの季語とされています。
松崎鉄之介の句は、いたるところでオウバイが咲きだした古都・西安の春を詠んでいます。
西安は、唐など多くの王朝の首都だったかつての長安。「春望」は「国破れて山河在り」で始まる、唐の詩人・杜甫が長安で詠んだ有名な詩のタイトルです。その西安も今は黄色い花に包まれ、ゆったりと眠りに就いているかのようです。

学名は「裸の花のジャスミン」
オウバイの樹高は1~2mほどで、2~4月に、径2㎝ほどの黄色い花を点々とつけます。花は正面から見ると6弁花のように見えますが、横から見ると、先端が6裂し、深い筒状につながった合弁花で、5弁の離弁花であるウメとは全く違った姿であることがわかります。
またウメには多数の雄しべがありますが、オウバイの雄しべは2本だけで、ほとんど無毛に見えます。それが、「Jasminum nudiflorum」(ジャスミン・ヌーディフロールム)という学名の由来です。種小名の「ヌーディフロールム」は「裸の花の」という意味。つまり学名全体では「裸の花のジャスミン」ということになります。

このような花の構造のため、果実や種子はできません。しかし、つる状に垂れ下がった枝の先が地面に触れると、そこから根が生じ、新しい株になるので、挿し木や株分けで容易にふやすことができるそうです。
オウバイの新しい枝は、緑色で断面は四角。花が咲いた後には、3枚の小葉に分かれたすべすべした葉が、枝の両側に対生します。
江戸時代前期に中国から渡来
オウバイが日本の文献に初めて登場するのは、1695年(元禄8年)に江戸の園芸家の伊藤三之丞が著した『花壇地錦抄(かだんじきんしょう)』。「黄梅、花形梅花のごとく黄色なり」と記述され、オウバイの栽培法が解説されていますので、17世紀中ごろまでには、中国経由で日本に渡来していたと思われます。

また、同属のウンナンオウバイ(雲南黄梅)、別名オウバイモドキも、そう遅れずに渡来したようです。オウバイが落葉低木なのに対し、こちらは常緑。花期はオウバイより遅めで、花の縁は6~8裂し、やや大柄です。
ただ、残念なことに両種とも、ソケイやマツリカなど他のジャスミン属が持つような芳香は、ほとんどありません。
花言葉は「期待」「控えめな美」「恩恵」
オウバイの花言葉は「期待」「控えめな美」、そして「恩恵」です。
「期待」は、まだ雪が残る寒い季節に花を咲かせ、春を呼ぶことから。「控えめな美」は、ウメのような香りもなく、花の数も少ないため。「恩恵」は中国の、黄河の治水に取り組んだとされる古代中国の伝説的な皇帝・禹(う)に由来します。

禹は治水の旅に出る際、腰に巻いていたつるを愛する妻に渡しました。けれども、あまりにも長い月日が経ったため、待ちわびていた妻はつるが絡んだ石になっていました。禹がその石を抱いて嘆き悲しむと、涙の落ちたつるは伸びていき、可憐な黄色い花が一斉に咲いたといいます。
鷹女の句は、金色に垂れて咲くオウバイの花に、明るい明日の到来を祈る心を詠っています。黄色は太陽の色でもあり、豊穣や幸福を約束してくれます。
ところで、早春に咲く花に黄色が多いのはなぜなのでしょう? 色彩に乏しいこの時期に活動をはじめるアブなどの昆虫にとって、黄色がとても目立つ色だからだそうです。花の色は、昆虫に花粉を運んでもらうための植物たちのアピールなのです。人間が黄色い花に希望を託すことも、自然の摂理なのかもしれません。
オウバイ(黄梅)
学名Jasminum nudiflorum
英名Winter jasmine
モクセイ科ソケイ属(ジャスミン属)の半つる性落葉低木。中国原産。2~4月に先が6裂した黄色の、径2㎝ほどの花をつける。別名にゲイシュンカ(迎春花)。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
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