二十四節気では立春を迎えたというのに、まだまだ真冬の寒さが続きますね。空は厚い雲に覆われ、風はひんやりと冷たくて、外に出るのも億劫になる..。身体も心も縮こまってしまいがちになります。
そんなとき、私にとって唯一の至福時間が「お風呂に入ること」です。
夜、家に帰ってきてから寝る前のひととき。もくもくした湯気のなかへ、ザブーンと入る。好きな香りの入浴剤なんかを入れて、「はぁぁぁ」とエコーがきいた声を漏らしながらゆっくり浸かる。疲れた身体を、あたたかいお湯がじんわり沁みわたってほぐしてくれる。
やっぱり真冬の季節に入るお風呂は格別だなぁと思います。
しかし、「芯からあたたまる」という意味では家のお風呂では物足りないときがあります。もっと広々としたところで、お湯質もよくて、なんなら寂しい気持ちも埋め合わせてくれる。でも温泉へ行くほどでもないしなぁ..という気分のとき、おすすめしたいのは「銭湯」です。
銭湯の歴史を調べてみると、6世紀の仏教伝来と深い関わりがあるといわれています。
寺院には「浴堂(よくどう)」が造られ、身の汚れを払う「沐浴(もくよく)」が仏に仕えるものとして大切な仕事と考えられていました。
やがて病人や貧しい人にも開放する「施浴(せよく)」が盛んに行われるようになり、平安時代には、京都に銭湯のはしりともいえる「湯屋」が登場。だんだんと恵まれない人だけではなく、庶民にも無料で入浴の機会が与えられるようになりました。やがて入浴料を徴収するようになり、これが現在の「銭湯」になったといわれています。
こうして寺院の沐浴から、庶民へと広まった銭湯文化。
現代ではひと昔前と比べて銭湯の数もだいぶ少なくなりましたが、私が住む奈良県にはポツリポツリと残っていて、今でも定期的に通っています。
着替えにバスタオル、シャンプーやリンス、石鹸を持参して、少しドキドキしながら暖簾をくぐる。お金を番頭さんに渡して、中に入るとたいてい近所の人が集まってお喋りしている光景に出会います。
「背おっきいねぇ」「どこからきたの?」と自然に会話することも多くて、強張っていた身体も帰り道にはポカポカとあたたかくなっている。冬の季節には湯冷めしないよう小走りで帰ったのも、いい思い出です。
そんな足繁く通っていた銭湯ですが、昨年、いつものように営業時間に行ってみたら「閉店のお知らせ」の紙が貼ってありました。
あとで調べてわかったのですが、閉店の理由は「設備の老朽化」だったそうです。80年以上も地元で愛されてきた銭湯でした。とっても驚いて、しばらくお店の前から離れられませんでした。
この銭湯のことはいまだによく思い出します。
中には大きな絵が飾ってあって、富士山ではなくヨーロッパのような街並みが広がっていました。お風呂はノーマルとバブル、電気、季節など5種類ほどあって、小さなサウナ室もありました。お湯の温度は高めで「今日も熱いねぇ」といいながら、みんな入っていました。ときおり、お湯を流す音に混じって番頭さんらの笑い声や話し声も聴こえてくる。私にとっては、日常の延長にある憩いの場所でした。
小さくても大きくてもそこに集う場所がある限り、行き交う人々の想いが積み重なっていく。あの銭湯で過ごした思い出は、この先ずっと忘れないことだろうと思います。
高根恭子
うつわ屋 店主・ライター
神奈川県出身、2019年に奈良市へ移住。
好きな季節は、春。梅や桜が咲いて外を散歩するのが楽しくなることと、誕生日が3月なので、毎年春を迎えることがうれしくて待ち遠しいです。奈良県生駒市高山町で「暮らしとうつわのお店 草々」をやっています。好きなものは、うつわ集め、あんこ(特に豆大福!)です。畑で野菜を育てています。
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