こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
初夏は、サイクリングをするのに気持ちの良い季節ですね。私も自転車を新調し、この春からときどき近所の手賀沼周辺を走っています。と言っても、私の場合のサイクリングは普通とはちょっと違い、ゆっくりと自転車を走らせ鳥を探します。名づけて「バードウォッチングサイクリング」。歩きながらよりも鳥の発見率は落ちますが、広範囲を見てまわれるので、最近ちょっとお気に入りの方法です。
そんなある日、いつものように自転車を走らせながら鳥を探していると、沼のほとりにあるヤナギの木のてっぺんに鳥を見つけました。ホオジロです。
ホオジロは、全長17cm。スズメとだいたい同じくらいの大きさの小鳥です。日本では、屋久島以北の各地で1年を通して普通に見られますが、雪が積もる地域だと冬にはいなくなります。主な食べものが草の種や昆虫のため、雪に覆われると見つけられなくなってしまうからです。
ホオジロという名前は、オスの頬が白いことが由来です。目の下に白い模様があり、鳥の場合はここが頬にあたるので、この名前がつけられました。でも、実際にホオジロに出会ったときに、「なるほど!名前の通りだ」とはあまり思えず、頬の白さよりも目を通る黒い線の方が目立っている感じです。
そんな名前と実物とのギャップのためでしょうか、ホオジロはバードウォッチングの初心者にとって、覚えにくい鳥の一つになっている気がします。ですから、頬が白いことよりも、「スズメみたいな鳥で顔が白黒」と覚えた方がわかりやすいかなと思います。また、メスはオスと同じような色合いですが、顔にある線が褐色で、なんだか全体的にポワンとした淡い感じにみえます。
ホオジロが棲んでいるのは、河川敷や農耕地、公園などの開けたところ。背の低い木がまばらにはえているような環境を好み、木々がうっそうと茂る森の中にいることはまずありません。ただ、山の森でも、林道沿いや伐採跡地にススキがはえているような開けた場所ならば、ホオジロがいることがあります。「チチッ」と二声ずつ鳴きながら、藪に潜んでいたり、道に降りて地面に落ちている草の種を食べていたりする姿に出会います。
3月下旬から8月上旬くらいまでが、ホオジロの繁殖期です。オスは木のてっぺんの目立つところにとまり、「チョッピーチリー、チョ」などと聞こえる声で囀ります。そのとき、頭を後ろにのけぞらせ、喉の白い羽毛を膨らませて目立たせるのですが、ある研究によるとこんな行動をするのは独身のオスなんだそうです。妻帯者の場合は、のけぞらずにさりげなく囀るとか。独身オスは多い日だと、1日になんと4000回も囀ることがあり、とにかく必死に魅力をアピールします。そして、めでたくメスを獲得すると囀る回数が減ることがわかっています。
日本では、昔からいろんな鳥の囀りを「聞きなし」といって、言葉に置き換えて表現してきました。有名なところでは、ウグイスの「法、法華経」がそうですが、「言われて見れば確かに聞こえるもの」や「いやいやまったくそうは聞こえません」というのもあって、なかなかおもしろいのです。
もちろん良い声で囀るホオジロにも、いろいろな聞きなしがあります。一番有名なのは「一筆啓上仕り候」。他にも「源平ツツジ、白ツツジ」や「丁稚びんつけ、いつつけた」などがあります。ホオジロの囀りは、個体によって変化があるので、聞きなしもいろいろあるわけです。
でも、これまでたくさんの囀りを聞いてきましたが、私は未だに「一筆啓上仕り候」や「源平ツツジ、白ツツジ」と聞こえたことはありません。ただ、「丁稚びんつけ、いつつけた」は、そっくりとはいかないまでも、なかなかいい線だなとは思います。そういえば、「札幌ラーメン、味噌ラーメン」なんていう聞きなしもあるそうですが、これはそうとう無理があるように思えますね。
聞きなしをどう表現するかは自由なので、皆さんもオリジナルの聞きなしを考えてみてはいかがでしょうか。鳥の声を覚えるのは苦手という方が多いようですが、自己流の聞きなしを作って覚えるのも苦手克服には良い方法ですし、なにしろバードウォッチングがいっそう楽しくなることは間違いないので、お勧めです。
写真提供:柴田佳秀
柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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