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ラベンダー

旬のもの 2023.07.15

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こんにちは。
俳人の森乃おとです。

梅雨が明けると「ハーブの女王」と呼ばれるラベンダーの花が、日本の各地で見ごろを迎えます。すらりとした青紫色の花穂がどこまでも連なって帯となり、丘の起伏を染め上げていく光景は、爽やかな夏の訪れを告げてくれます。

ラベンダー色とは「やや灰色がかった紫色」

「ラベンダー」は、シソ科ラベンダー属の半木本性植物の通称です。
地中海沿岸地方が原産で、39種ほどが知られ、いずれも高さは30~90㎝ほど。茎の先に多数の小花が集まり、長さ5㎝ほどの花穂をつくります。

小花はシソ科特有の唇状の合弁花で、先端は5裂しています。葉は細長く、対生または輪生。花と葉は繊毛で覆われ、その間に揮発性の油を分泌する腺があり、強い芳香を放ちます。
花の色は青、紫、ピンクなど。ちなみにラベンダー色は、色彩学では「やや灰色がかった紫色」と定義されています。

ツタンカーメン王とラベンダー

ラベンダーは、強い芳香性があるために、古代エジプトではミイラづくりにも使われていました、1923年にツタンカーメン王の墓が開けられた時には、かすかにラベンダーの香りが漂ったとされています。

また、花名の由来については、古代ギリシャやローマでは、入浴剤としてラベンダーが使われたので、「洗う」を意味するラテン語のlavare(ラヴァーレ)が英語名lavenderの基になったと考えられてきました。
しかし、その後、詳細に史料を探しても、ラベンダーがギリシャやローマで入浴剤として使われたという証拠は見つかっておらず、いつしかこの説は立ち消えになりつつあります。

聖母マリアの愛した花

中世ヨーロッパでは、ラベンダーはリラックス効果や鎮痛、抗うつなど多様な薬効を持つ万能ハーブだと見なされてきました。
香水の原料としても重要で、18世紀初めに開発された男性用化粧水のオーデコロンには、少量のラベンダーの精油が混ぜられていました。

キリスト教では、ラベンダーは聖母マリアが好んだ花とされています。防虫剤として、イガ(衣蛾)の食害から服を守ってくれる上、女性の髪がラベンダーを入れた水に濡れている間は、貞節が守られると信じられたためです。
聖母が聖家族の服を洗い、ラベンダーの茂みの上に広げて干したので、花が神々しい青色に染まったという伝説もあります。

女王陛下のお気に入り

ラベンダーは、イギリス王室とも深い関わりがあります。生涯独身を貫いたエリザベス一世(在位:1558~1603年)は、ラベンダーを肌身離さず持ち歩きました。食卓には常にラベンダーの砂糖漬けが添えられ、偏頭痛を癒すためにラベンダー・ティーを一日に何杯も飲んだそうです。

大英帝国全盛期の象徴・ヴィクトリア女王(在位: 1837~1901年)も、ラベンダーを愛したことで知られています。女王はラベンターの花で宮殿内を飾り、ラベンダー・オイルをまき散らし、その芳香をいつも身にまとっていました。

和名は「薫衣草」

さて、日本でラベンダーが知られるようになったのは、江戸時代末期のこと。和名は「薫衣草(くぬえそう/くんいそう)」です。
1822年(文政5年)に刊行された、西洋薬物書『遠西医方(えんせいいほう)名物考(めいぶつこう)』には、オランダ語でラベンダーを指す「ラーヘンデル」と「ラーヘンデル油」について詳細に記述されています。

また、1860年(万延元年)に幕府が米国に派遣した遣米使節団の団員はラベンダーの種を持ち帰っています。幕末にはラベンダーの栽培やラベンダー油の精製が、一部で行われていたと考えられます。
1937年には北海道で本格的な栽培が始まりましたが、合成香料の普及によって精油の需要が減り、現在は観光資源としての人気が高まっています。

ラベンダー いっぽんの香や 恋を得て――窪田和子

ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」「幸せがくる」「静寂」など。
「あなたを待っています」は、美少年に恋したラベンダーという名の少女が、告白する勇気もなく待ち続けた末、一本の花となってしまったという伝説から。
「幸せがくる」は、ラベンダーをプロポーズの贈り物にしたり、幸運のお守りとして花嫁が身に付けたりする風習が、欧米にあることからでしょう。

ラベンダーの季語は、俳句の世界では夏。俳人の窪田和子氏の句は、恋心を秘めながら静かに風に揺れ、強い薫香を放つラベンダーの姿が目に浮かんでくるようです。

ラベンダー

学名:Lavandula
英名:Lavender
シソ科ラベンダー属の半木本性植物の通称で、地中海沿岸地域原産。全体に芳香があり,白毛を密生。夏,枝先に淡紫色の花穂をつける。花からラベンダー・オイルを採取し、香料とする。

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森乃おと

俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)

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