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コノハズク

旬のもの 2023.08.27

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こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。

そろそろ夏休みもおしまいですね。地域によっては学校が始まっているところもあるでしょう。とにかく暑い夏でしたが、海や山へキャンプに出かけた方も多いのではないでしょうか?

私もキャンプが好きなので、ときどき出かけますが、いつも思うのは大自然の中だと夜が本当に暗いこと。街での暮らしだとあまり実感しませんが、キャンプでは「夜って真っ暗なんだなあ」と改めて思うのです。そんな真っ暗な夜にテントの中で寝ていると、いろいろな音が聞こえてきます。そんなある日のこと、山のキャンプ場で寝ていると、遠くから「ブッ・キョ・コー、ブッ・キョ・コー」と繰り返す不思議な音が聞こえてきました。今回の主人公であるコノハズクの声です。

コノハズクは、日本でいちばん小さいフクロウ類で、なにしろ人の拳ほどしかありません。子どものときに動物園でこの鳥を初めて見て、あまりの小ささにびっくり仰天したことを今でも鮮明に覚えています。木の葉のように小さく、体の色や模様が枯れ葉のようなミミズクなので、この名前がつけられました。ミミズクの特徴である、耳みたいな羽角と呼ばれる飾り羽が頭にあり、黄色い目が印象的です。おもしろいことに、この鳥の体の色には、灰褐色の灰色型と赤褐色の赤色型の2タイプがあります。この違いは雌雄ではなく、個体差のようなのですが、どうしてそんな違いがあるのかよくわかっていません。

コノハズクは、4月下旬くらいに越冬地の東南アジアから日本へ子育てのために渡ってくる夏鳥です。北海道から九州までのよく茂った山の森が主な生息地で、とくにブナの森に多く棲んでいます。主な獲物が昆虫なので、昆虫がたくさんいるブナの森はコノハズクが暮らすには理想的な環境なのでしょう。

こんな可愛らしいミミズクですから1度は見たいと思いますが、それは諦めた方がいいかもしれません。深山幽谷に棲み、夜行性の上、とても小さいので姿を見つけるのは超難関。出会いは諦めて、鳴き声を楽しむくらいがいいように思います。とにかく姿を見るのが難しいコノハズクですから、そのことが災いして、千年も誤解されていた鳥でもあるのです。

その誤解とは、コノハズクの声が別の鳥の声と間違われてきたこと。コノハズクとは似ても似つかない、かなりド派手な色の鳥のブッポウソウの声だとずっと信じられてきたのです。いったい、なぜこんなことになったのか。その理由は、前述したようにコノハズクが夜行性でまず姿が見られないから。ましてや、鳴いているシーンを見た人なんていなかったのでしょう。

ブッポウソウ

また、コノハズクが鳴いていた森へ昼間に行ってみるとブッポウソウがいるので、きっとこの鳥が鳴いているのだろうと思い込み、「ブッ・キョ・コー」の声から「ブッポウソウ」という名前がつけられたのです。ちなみに、この名前は鎌倉時代にはあり、おそらくそのころにこの誤解が発生したのだろうと思われます。なので約千年間も誤って認識され続けてきたということになるわけです。

ところがこのブッポウソウ。いくら観察しても「ゲゲゲッ」としか鳴きません。また夜に行動しているとも思えないので、本当にこの鳥が鳴いているのか、疑念が持たれはじめました。それが昭和初期のころです。

そして、昭和10年(1935年)に思わぬことがきっかけで、その正体がコノハズクである事が判明します。昭和10年6月7日と8日に愛知県鳳来寺山から当時ブッポウソウと思われていた声を生中継するラジオ番組が全国放送されました。すると東京で飼育されていたコノハズクがラジオから聞こえる声に反応し、同じ声で鳴きはじめたのです。それを知った鳥類学者の黒田長禮(ながみち)さんは、このコノハズクを後日預かって「ブッ・キョ・コー」と鳴く事を確認。ついに声の正体が判明したのです。

また、この放送よりも1年前に、山梨に棲む鳥研究者である中村幸雄さんは、鳴いている鳥を銃で撃ち落としたらコノハズクであったことを報告しており、野外でも確実にこの声はコノハズクであることが確かめられていました。それからブッポウソウを「姿のブッポウソウ」、コノハズクを「声のブッポウソウ」と呼ばれるようになったとか。当時、このブッポソウ騒動は日本で大きな話題になったみたいで、日本野鳥の会の会報はブッポウソウ特集が組まれています。なんだかとても良い時代だったのでしょうね。

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柴田佳秀

科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。

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