こんにちは。俳人の森乃おとです。
透き通った秋の風が吹き抜けて、天高く馬肥ゆる頃。山野では、蔓(つる)から垂れ下がった優しい灰青色の実が二つに割れて、甘く熟する季節になりました。
秋の山野の甘い味覚の代表格
アケビ(木通、通草) はアケビ科アケビ属のつる性落葉低木で、日本では北海道を除く本州、四国、九州の山野と、朝鮮半島、中国に自生します。
果期は9~10月。扁平円筒形の果実は長さ7㎝ほどにもなり、甘く熟する秋の山野の植物の代表的存在とされてきました。

フジによく似た紫色の総状花序
アケビは4~5月に新しいつるを伸ばし、それと同時に、花を咲かせます。花は雌雄同株の総状花序。基部に花径25~30㎜のやや大きい雌花を1~3個、先端部に花径10~16㎜の雄花を4~8個ほどつけます。花序の長さは6~12㎝に達します。
両方の花とも花弁はなく、美しい色がついた萼(がく)が3枚ずつあります。雌花は赤みが強い紫色、雄花は淡い青紫色になり、全体としてマメ科のフジの花に近い印象になります。ちなみに、蔓の巻き方も、フジと同じく左巻きです。

葉は奇数掌状複葉。小葉は長楕円形で、通常は5枚(アケビおよびゴヨウアケビ)。3枚のものもあり、ミツバアケビと呼ばれます。樹高は1~5m。多くは種子が鳥に運ばれ、庭などに自然に生えてきますが、大事に栽培している家では、棚を作って蔓を這わせます。
名前の由来は「開け実」から
アケビという和名の由来は、果実が熟してくると、肉厚の果皮が自然に裂け、割れ目から白い果肉と無数の黒い種子が覗く様子が、いかにも実を開けたように見えることから、「開け実」がなまってできたという説が有力です。日本の植物分類学の父と言われる牧野富太郎博士は、強くこの説を推しています。

「木通」(もくつう)という漢字表記は、中国名から。「通草」と書く表記も俳句などではよく使われます。牧野博士は、「木通はアケビとは別の蔓植物を指すのではないか」と疑義を呈しています。
アケビは、「Akebia quinata」という学名を持つ本種を指すほか、日本にあるアケビ属の3種の植物の総称としても使われます。 学名の意味は、まさに「蔓植物のアケビ」です。

数年前の秋の日、山歩きを楽しんでいた時のこと。「これがアケビです」と、同行者が目の前に垂れ下がる蔓から薄紫の果実をもぎ、皮を開いて手渡してくれたことを思い出します。
果肉はゼリー状でとろみがあり、少し甘味があっておいしいものでした。それが私の、人生はじめての「アケビ体験」でした。

俳人の前田普羅の句では、主人より目ざとく熟れ時を知り、さっそく食べられているアケビを詠んでおかしみがあります。ちなみに、俳句の世界では「アケビ」は秋の季語。
また、女流俳句隆盛の先駆である長谷川かな女(はせがわ・かなじょ/1887~1969年)には、
「ぞろぞろと 通草(あけび)の種を 舌に出す」という句があります。
確かに、アケビはかぶりついても、そのまま噛むわけにも呑み込むわけにもいきません。まず舌と歯で果肉をこそぎ取ってすすり、黒い種子は苦いので、吐き出さなければなりません。
花言葉は「才能」「唯一の恋」
アケビは東北地方を中心にして、春の若芽や秋の果実は食用とされ、茎は生薬となり、種子からは油を採り、蔓は籠を編む材料とされるなど、無駄なく利用されてきました。古来、日本人の暮らしに深く根差し、愛された植物です。

岩手県出身の詩人・童話作家の宮沢賢治(1986-1933年)は、生前に唯一刊行された詩集『春と修羅』の同タイトルの有名な作品の中で、アケビを登場させています。賢治にとってアケビは、身近でなつかしい植物だったのでしょう。
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様(略)
いかりのにがさまた青さ/四月の気層のひかりの底を/
唾(つばき)し はぎしりゆききする/おれはひとりの修羅なのだ
諂曲(てんごく)とは、自分の意志を曲げて他の人に媚びへつらうこと。
賢治は卓越した感性を持ち、故郷・花巻を「イーハトーブ」と呼び、理想郷を追い求める農芸科学者でもありました。アケビは「才能」という花言葉を持ちます。アケビが食用や薬用、工芸用など多方面に利用されることからでしょう。

「春と修羅」の詩からは、あふれる才能と高い理想を持つがゆえに、他者から理解されず、誰とも心を通い合わせることができないことへの、激しい憤りと孤独が伝わってきます。
もう一つの花言葉は「唯一の恋」。これは雄花と雌花が離れて咲くことに由来するそうです。賢治の短い人生の中での「唯一の恋」は、詩や童話を結実させることであったのかもしれません。
アケビ(木通、通草)
学名 Akebia quinata
英語名 Chocolate vine
アケビ科アケビ属の落葉蔓性低木。日本の本州、四国、九州と朝鮮半島、中国に分布し、山野に生える。4〜5月に,総状花序に淡紫色の花がたれ下がって咲く。果実は秋に熟し、食べられる。

森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
関連する商品 RELATED ITEMS
-
【2025年】にっぽんのいろ日めくり
3,300円(税込) -
【5種セット】暦生活スケジュールシール (行事・祝日・二十四節気・七十二候・月の満ち欠け)
1,375円(税込) -
【2025年】縁起のいい日手帳 マンスリー
1,320円(税込) -
【2025年】旬を味わう七十二候の暦
1,815円(税込) -
【2025年】花の日めくり
3,300円(税込) -
【2025年】朝の日めくり
3,300円(税込) -
【2025年】月と暦 日めくり
1,210円(税込) -
[月]スケジュールシール
275円(税込) -
予約販売【2025年】旅する日めくり ~365 DAYS JOURNEY~
1,980円(税込) -
予約販売【2025年】俳句の日めくりカレンダー / スタンド付
2,200円(税込) -
[お月くんといっしょ] 刺繍トートバッグ
1,990円(税込) -
予約販売【2025年】旬を味わう七十二候の暦
1,815円(税込) -
くみひもブックマーカー(金色・真珠色・紅梅色・紅色)
1,100円(税込) -
書籍「日本を味わう 366日の旬のもの図鑑」
2,860円(税込) -
書籍「草の辞典 野の花・道の草」
1,650円(税込)