漬物男子田中友規です。
と言っても、漬物を研究しはじめたのは7年ほど前で、
実はその前はシンガポール料理の研究をしておりました。
シンガポール料理は、中国料理がベースとなっていて、生姜はどの料理にも使用するため、常に自宅の冷凍庫にはいつも大量にストック。
その後も、シンガポール料理のインド人街で食べたカレーにはまり、ここでもまた生姜。鰹節や漬物を使うスリランカカレーにもはまり、ここでもまた生姜。

イベントや料理レッスンのたびに、すりおろしては使い、使ってはすりおろし、の繰り返しで、一時期、ニンニクと生姜のペーストの製造会社を起業しようかと思うほど。
不思議なもので、にんにくと生姜をフードプロセッサーでペーストにすると、食感もざらつき、金属の刃と化学反応を起こして緑色に変色してしまい(この現象の原因はまだ調べきれていない)美しくないので、樹脂のおろし器を使って手作業でしょりしょり。

しかしこれだけ大量に長期間、同じ食材に触っているだけあって、どの生姜が美味しい、どのニンニクは香りがいい、など目が合っただけで今は彼らの機嫌がわかり、最近ようやくうまく使いこなせるようになってきた実感がある。
何事も10000時間訓練すればその道のプロになれる、という研究があるが、累計でそのくらいはニンニク、生姜をすりおろしてきたかもしれない。
僕が好きな番組で、中年の俳優が仕事の合間にひたすら街の美味しい料理を食べる人気ドラマがあるのだが、その中に「豚のニンニク焼き」というメニューが出てきたことがある。

「豚のしょうが焼きじゃなく、にんにく焼き?」
にんにく、生姜のプロとしては反応せずにいられないメニューだ。
レシピは紹介されなかったが、生姜のかわりにすりおろしニンニクをたっぷり使い、
やや厚めの豚肩ロースを醤油だれで甘辛く味付けした一品で、これはもう白飯大量消費間違いなし。
こうなれば再現したくなるのが料理家というもの。自宅にあったストックを使い、さっそく試作に取り掛かった。

前提として、ぼくは豚の生姜焼きは大好物なのだが、生姜ばっかりが際立った辛すぎる生姜焼きは少し苦手。サバ味噌なんかでも針生姜くらいがちょうどいい。スライスした生姜が丸々入っていると、ちょっと味のバランス崩してません?とお箸で避けてしまう。生姜は、油分の多い料理に香りと辛味をプラスして、さっぱりとさせてくれる役まわりなのだがちょっと出過ぎると、いやそこまで主張してこなくていいのよ、と全体からはみ出てしまう。たこ焼き、お好み焼きでも、全体に紅生姜混ぜないでほしい派。口直しにちょっと食べたいのだ。

生姜焼きにしても、すりおろし生姜がどっさり、というのはどうもいただけない。何度も具合を試した結果、絞り汁だけでいいのでは?となり、豚の生姜汁焼きが我が家の定番だ。
さて、ドラマでみたニンニク焼き。
甘辛ダレの料理は、最初から肉をタレにつけ込んでしまうと砂糖が焦げやすく、肉に火が通る前に焦げてしまうから、肉には最低限の下味だけ。少量の酒と塩を振り、フライパンでじっくりと脂身を溶かしていきたい。肉を置いた時に、じゅっと音がするようでは温度が高すぎる。

肉を置いたらじわじわと白い淵が半透明に変化していく表情を見逃さないよう、目を離してはいけない。また豚肉から染み出した脂汁はキッチンペーパーで拭き取り、アクも取ってあげよう。脂を放っておくと、高温になりすぎて表面が揚げ物のようになってしまう。
火加減は、肉の水分と油がパチパチと弾けない程度がいい。じわ、じわ、と火が入り、余計な水分が抜けたタイミングを見計らう。
一方、ニンニクはペーストにし、砂糖、味醂、醤油と、合わせ調味料にしておき、肉に火が通ったタイミングで絡めていく。ここでも弱火。
ニンニクの辛味成分がコクに変化し、醤油の濃度があがっていく様子に目を細めながら、肉を絡めて完成だ。
一口味見すると、とてつもないインパクト!
見た目は生姜焼きだが、ニンニクの爆発力がある。

うまい、うまいには間違いないのだが・・・これが合うんじゃなかろうか、と冷蔵庫をゴソゴソ。見つけてきたのは、以前老舗漬物店で見つけた穂先だけを使った生姜のお漬物。
食感は柔らかい繊維質でホワイトアスパラのピクルスのような上品な味わいで、これだけでも大変美味なのだが、にんにく焼きにぴったりなのだ。
ニンニクが持つ白飯消費への推進力ばかりに注目していたが、この穂先生姜のおかげで豚肉の旨み、ニンニクのコク、そして生姜の甘酸っぱさが一体となり、ドラマのそれを超えてしまったようだ。

生姜は、縁の下の力持ち。存在は感じていても前に出過ぎないくらいがちょうどいい。
今日は「豚のにんにく焼き 生姜風味」で落ち着いたが、「豚の生姜汁焼き にんにく風味」になったらどうだろう?生姜焼きに、ニンニクの醤油漬けを合わせるのも、また別の味わいになるかもしれない。
まだしばらくは、生姜をすりおろし続ける料理家人生が続きそうだ。

田中友規
料理家・漬物男子
東京都出身、京都府在住。真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
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