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東風こち

旬のもの 2024.02.03

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こんにちは。気象予報士の今井明子です。
まだまだ寒い日が続きますが、そろそろ梅の便りも聞こえてきます。
梅の名所といえば、天満宮。天満宮といえば、菅原道真をまつった神社です。

菅原道真が詠んだ歌に、このようなものがあります。
「東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 主なしとて 春な忘れそ」

これは道真が政争に敗れ、大宰府に左遷されるときに、自宅の梅の木の前で詠んだ歌とされています。その梅が道真を恋しがって一夜のうちに道真のもとにやってきてしまったという「飛梅(とびうめ)伝説」もあります。

さて、今回の本題はこの和歌にある「東風」です。「ひがしかぜ」や「とうふう」ではなく「こち」と読みます。これも難読漢字ですね。

東風は春風のことを指しますが、最初に「東風=春風」と聞いたとき、私の頭は疑問でいっぱいになりました。というのも、春を告げる春一番は、強い南寄りの風だからです。

しかし、どうやら東風が春風なのは、気象学的な根拠というよりは、中国の陰陽五行説が由来となっているようです。五行説では、春を東の方向と結びつけているので、東風は春風を指すのだとか。

とはいえ、全く気象学的な根拠がないかというと、そうでもないのです。春は偏西風に乗って、暖かく乾燥した空気でできた移動性高気圧が日本列島を訪れます。高気圧からは時計回りに風が吹き出すため、この移動性高気圧が日本海のあたりを通ると、東寄りの温暖な風がちょうど日本列島付近で吹くこともあるからです。

冬の間に日本列島に吹きつける風は、大陸にあるシベリア高気圧から吹く冷たくて乾燥した北西の風でした。季節が進み、シベリア高気圧の勢力が弱まると、日本列島に移動性高気圧がやってきます。北西の風から東寄りの風へ風向が変わり、風も暖かくなるとなれば、確かに東風が吹いて「春風が吹いてきたなあ…」と思う人もいることでしょう。

まだまだ寒い日は続くものの、時折暖かい日も訪れ、次第に春の気配が強くなる今日この頃。東風が梅の香りを運んでくれるでしょうか。

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今井明子

サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。

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