こんにちは。俳人の森乃おとです。
寒さの残る春まだ浅き頃、雪が零れ落ちたかのように、白く清らかに咲く花があります。スノードロップ(Snowdrop)という美しい名を持ち、ヨーロッパでは春の訪れを真っ先に告げる花として愛されてきた「春の妖精」です。
春を待って咲く雪のような花
スノードロップは、ヒガンバナ科ガランサス属の球根植物です。草丈は10~20㎝。原産地は東ヨーロッパから西アジアで、15種ほどが知られています。ヨーロッパにおいて代表的な種はGalanthus nivalis(ガランサス・ニバリス)です。
学名の属名Galanthusは、ギリシャ語の「gála(ガラ=ミルク)」と「ánthos(アントス=花)」の合成語。種小名のnivalisは「雪」という意味ですので、全体として「雪のような乳白色の花」を指します。ガランサスもスノードロップも、この属の植物の総称としても使われます。
スノードロップは、16~17世紀のヨーロッパで大流行した、涙滴形の真珠のイヤリングのドイツ語名Schneetropfen(Snow-drop)に由来します。楕円形に歪んだ真珠の形が、スノードロップの細長い花被(かひ)の形によく似ていたからだそうです。ちなみに花被とは、萼(がく)と花びらをまとめた呼称です。
日本には明治時代の初めに渡来し、「マツユキソウ」(待雪草)という和名がつきました。「春を待って咲く雪のような花」に由来しますが、あまり定着せず、英語名のスノードロップの方がよく使われています。
ところで、スノードロップに見た目も、名前も、生えている場所もよく似ていて、混同されがちな花があります。同じヒガンバナ科のスノーフレーク(=雪の欠片)です。草丈が20~45㎝と、スノードロップよりやや大きいので、和名はオオマツユキソウ(大待雪草)。花の形がスズラン(鈴蘭)に似ているので、スズランスイセン(鈴蘭水仙)の名もあります。
「スプリング・エフェメラル」の代表的存在
スノードロップの花期は2~3月。冬の終わりから早春にかけて、2本の細長い葉を直立させて花茎を伸ばし、その先端に花径2~3㎝の花を1個ずつ咲かせます。
花は、外側の長い花被(外花被)3枚と内側の短い花被(内花被)3枚からなる、釣鐘形の6弁花です。楕円形の外花被片は3方に垂れ下がり、うつむき加減の独特の美しい姿をつくり出すことが特徴です。また、内花被片は重なり合って筒状になり、いくつかの種では先端近くに緑色の斑紋を持ちます。
寒い時期に咲くことから、夜になると花を閉じ、昼間吸収した温かい空気をキープする性質があります。
スノードロップは冬の終わりにいち早く葉を広げ、花が咲き終わると地上部はすっかり枯れ、長い休眠生活に入ります。このような儚い生活スタイルの花を「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼びます。スノードロップはその代表的な植物で、他にはカタクリやイチリンソウ、ニリンソウなどがあります。
スノードロップと「聖母マリアの清めの日」
スノードロップはキリスト教圏の教会の庭に多く咲いており、聖母マリアの花とされています。2月2日の聖母マリアの清めの祝日=聖燭節の日に、スノードロップを集めて家に持ち帰ると家が清められるという言い伝えもあります。
またドイツの伝説では、自分の色である「白」を“雪”に分けてあげた優しい花だとされています。
かつて雪は透明で、色を持ちませんでした。それを悲しんだ雪は、いろいろな花に色を分けてくれるよう頼みましたが、どの花にも断られ、応じてくれたのは真っ白なスノードロップだけでした。スノードロップは、そのお礼として「春の訪れを最初に告げる花」という栄光を与えられたということです。
花言葉は「希望」と「慰め」
キリスト教圏でよく知られているのは、禁断の果実に触れてエデンの園を追放されたアダムとイブにまつわる伝説です。
楽園を追われた二人が初めて迎えた冬の日のこと。果てしなく広がる雪野原を前にして、凍えたイブは絶望に打ちひしがれ、涙を流していました、その姿を哀れに思った天使が、舞い落ちる雪を手のひらに受け、美しいスノードロップの花に変えました。そして「もうすぐ春はやってきます」と二人を慰め、希望を与えたといいます。
この伝説からスノードロップの花言葉「希望」と「慰め」が生まれました。
スノードロップには、「切ない恋愛」という花言葉もあります。歌人・鳥海昭子の歌の「五十年経てなお慕う」恋愛とは初恋の記憶なのでしょうか。雪のように清らかな慕情が、スノードロップの風情と重なり合います。
厳しい冬はいずれ終わります。スノードロップに思いを託し、約束された春の訪れを信じて、新しい季節のはじまりへと踏み出していきましょう。
スノードロップ
学名 Galanthus nivalis
英名 Snowdrop
ヒガンバナ科ガランサス属の球根植物で、東ヨーロッパから西アジア原産。草丈は10~20㎝。葉は2枚の線形。花期は2~3月。花色は白。外花被・内花被各3枚からなり、外花被は下向きに吊り下がる。和名はマツユキソウ(待雪草)。
森乃おと
俳人
広島県福山市出身。野にある草花や歳時記をこよなく愛好する。好きな季節は、緑が育まれる青い梅雨。そして豊かに結実する秋。著書に『草の辞典』『七十二候のゆうるり歳時記手帖』。『絶滅生物図誌』では文章を担当。2020年3月に『たんぽぽの秘密』を刊行。(すべて雷鳥社刊)
関連する商品 RELATED ITEMS
-
【2025年】にっぽんのいろ日めくり
3,300円(税込) -
【5種セット】暦生活スケジュールシール (行事・祝日・二十四節気・七十二候・月の満ち欠け)
1,375円(税込) -
【2025年】縁起のいい日手帳 マンスリー
1,320円(税込) -
【2025年】旬を味わう七十二候の暦
1,815円(税込) -
【2025年】花の日めくり
3,300円(税込) -
【2025年】朝の日めくり
3,300円(税込) -
【2025年】月と暦 日めくり
1,210円(税込) -
[月]スケジュールシール
275円(税込) -
予約販売【2025年】旅する日めくり ~365 DAYS JOURNEY~
1,980円(税込) -
予約販売【2025年】俳句の日めくりカレンダー / スタンド付
2,200円(税込) -
[お月くんといっしょ] 刺繍トートバッグ
1,990円(税込) -
予約販売【2025年】旬を味わう七十二候の暦
1,815円(税込) -
くみひもブックマーカー(金色・真珠色・紅梅色・紅色)
1,100円(税込) -
書籍「日本を味わう 366日の旬のもの図鑑」
2,860円(税込) -
書籍「草の辞典 野の花・道の草」
1,650円(税込)