こんにちは。科学ジャーナリストの柴田佳秀です。
冬のバードウォッチングのフィールドのひとつに、水田があります。冬の水田は水やイネがありませんから、なんだか広大な荒れ地のようで、生きものとは無縁の世界に見えます。しかし、じっくり探すと意外と鳥の姿が多く、今回紹介するタゲリは、そんな冬の田んぼで見られる鳥の一つです。
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タゲリは、全長30cmくらいのハトと同じ大きさの鳥です。 10月末頃に本州以南の日本へ渡ってくるチドリ科の冬鳥で、翌年の3月末くらいまで滞在します。この鳥の最大のチャームポイントは、なんと言っても頭から後ろにピンと伸びたアンテナような羽です。この羽は冠羽(かんう)と呼び、タゲリの場合は雌雄ともにあります。
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そして、顔には歌舞伎役者の隈取りのような模様が。また、翼は金属光沢の玉虫色という、最高に素敵な装いの鳥がタゲリなんです。こんないでたちで胸を張ってさっそうと歩く様子からか、「たんぼの貴婦人」なんていう愛称がつけられています。私は貴婦人というよりも、この鳥を見る度に、なんだか手塚治虫さんの漫画「リボンの騎士」のサファイアを連想してしまうのです。
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タゲリは、ユーラシア大陸に広く分布していて、英名はNorthern Lapwingと言います。このLapwingのLapとは古い英語で跳ねるという意味だそうで、丸い翼でふわふわと上下するタゲリ独特の特徴的な飛び方が由来なのでしょう。冬に日本へやってくるタゲリは、夏の間、どこにいるのか全くわかっていませんでした。
ところが2011年にモンゴルのオギィ湖で標識をつけられた鳥が石川県で発見され、なんと3000kmもの旅をして日本へ飛んでくることが判明したのです。あんな、ふわふわとした飛び方でそんな遠くから飛んできたとは、なんだか胸が熱くなる思いがします。
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冬の広大な水田を闇雲に探しても、タゲリはなかなか見つかりません。いるところといないところがあるんです。ちょっと湿り気がある水田や草のはえた畦に集中する傾向があります。この鳥の主な食べものは、地面にいる昆虫やミミズなので、カラカラに乾ききった水田だとそれらがいないので鳥の姿はありません。
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ところで「千鳥足」ってよく言いますね。お酒に酔った人があっちふらふらこっちふらふらしながら歩く様子が、チドリの歩き方に似ているので、そう呼ばれるようになったとのこと。タゲリはチドリの仲間ですから、もちろん千鳥足。でも、鳥の場合はとうぜん酔っ払っているのではなく、これが食べものの探し方なんです。
立ち止まっては目で見て獲物を探し、なければ移動。見つけるとさっと駆け寄ってついばむ。その一連の行動が千鳥足になります。タゲリは、目が大きくて可愛らしい顔をしていますが、目が大きいのは、獲物を見つける時によく見えるための適応なんです。
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もう一つタゲリには、興味深い採食法があります。それはワームジッター採食法です。そんな名前は聞いたことがないと思いますが、これは私が勝手に名づけた行動名。千鳥足で立ち止まったときに、片足をブルブルと小刻みに動かして地面に震動を起こし、なにか見つけるとさっと駆け寄ってついばむ行動です。
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じつは、地中にいるミミズは、震動を感じると天敵のモグラが来たと思って地表に飛び出して逃げる習性があるんだそうです。この採食法はそれを応用していると考えられおり、震動でミミズを飛び出させて捕まえているのです。海外では、人間が釣り餌用のミミズを震動で捕まえることをしており、ワームジッターと呼ばれています。まさにタゲリと同じ方法なのですが、鳥の場合は誰にも教わることなくやっているんですから、驚くべき事だと思いす。
さて、こんなキュートなタゲリですが、近年はなかなか出会えない感じがします。30年くらい前は、50羽くらいの大きな群れに会うことも珍しくなかったのですが、最近はいても数羽です。近代の稲作は農地を乾かす方向になっており、冬でもミミズがいる水田が少なくなっているのです。
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また、水田自体が物流倉庫になって消滅してしまった場所もあります。モンゴルから日本に飛んできても、越冬できる場所がない状況にタゲリたちはきっと困惑しているでしょう。なかなか保全は難しいのですが、神奈川県茅ヶ崎市のグループは、タゲリをシンボルとした米作りを行っており、タゲリと共存する活動をしています。毎年この鳥に出会えるように、お米を食べることで応援していきたいと思います。
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柴田佳秀
科学ジャーナリスト・サイエンスライター
東京都出身、千葉県在住。元テレビ自然番組ディレクター。
野鳥観察は小学生からで大学では昆虫学を専攻。鳥類が得意だが生きものならばジャンルは問わない。
冬鳥が続々とやってくる秋が好き。日本鳥学会会員。
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