こんにちは、料理人の庄本彩美です。今日は「お麩」についてのお話です。
「もっちり」「もちもち」という食感がある。柔らかい弾力があり、噛んだ時に粘りを感じ、食べ応えがある。特に日本人が好きな食感で、根強い人気を獲得している。
「食べ応えがあること」「食べていて楽しい」ことなどが、この食感が人気な理由のようだ。確かにあの弾力はクセになる。
古くから愛されてきたもちもち食感の食材の一つに「生麩」がある。
元々は中国から生麩の原型が禅僧を通して伝わり、肉食が禁じられていた日本の禅寺の貴重なタンパク源として重宝されていたという。その後、茶会や料亭でも使用されるようになり、民衆にも親しまれるようになったらしい。
私は京都で生麩の存在を知った。生麩のもっちりした食感と、ほんのり焼かれた田楽味噌の優しい旨みがマッチして、その美味しさにほっぺが落ちそうになった。
京都ではスーパーで生麩が手に入るので、日常的に使いやすい。焼いたり、炊き合わせにしたり、油とも相性が良いため、揚げても美味しい。味が染み込みやすいだけでなく煮崩れもしにくい。
生麩自体は淡白な味のため、様々な調味料に合う。出汁をはじめ、味噌や胡麻、山椒など、日本の調味料との親和性は抜群。どんな味も受け入れながら、料理の旨みを引き出し、奥行きのある料理に仕立上げる。なんとも懐が深い食材である。
色々な食材とも相性の良い生麩だが、その魅力を複雑に成り立たせるのは、やはり「食感」にある。
食感には、味や香りの強弱を変える性質があるという。生麩はもちもちとした弾力があることで、噛んだ時に味や香りの強弱がつきやすい。
また、ひとつの料理に2〜3個の食感があると、満足感が得られやすいと言われている。野菜ではなかなかこの食感は味わえないため、生麩が入ることで、食感のバリエーションが広がるのだ。
これが美味しさや、食べる楽しみに繋がる。「噛めば噛むほど味が出る」これが生麩の魅力なのだ。
生麩は様々な料理に合わせて美味しいだけでなく、種類も沢山ある。季節折々の花をかたどった生麩や、カラフルなグルテンの糸で巻かれた可愛らしい手毬麩などは、料理をぱっと華やかにしてくれる。特に今の時期、ちらし寿司やお吸い物などに梅や桜の花麩が添えられていると、春の訪れを感じずにはいられない。
他にも、煮上げてムニっとした食感になった肉のような「しぐれ煮」、味付けしてから揚げたジュワッとした食感の「利久麩」などもある。あんこを生麩で包んだ麩饅頭も捨てがたい。はるか昔から日本食を支えてきた、生麩の魅力はとどまることを知らない。
噛めば噛むほど味が出るように生麩の世界は奥が深い。まだまだ私は生麩を味わい足りていないようだ。
庄本彩美
料理家・「円卓」主宰
山口県出身、京都府在住。好きな季節は初夏。自分が生まれた季節なので。看護師の経験を経て、料理への関心を深める。京都で「料理から季節を感じて暮らす」をコンセプトに、お弁当作成やケータリング、味噌作りなど手しごとの会を行う。野菜の力を引き出すような料理を心がけています。
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