6月に入り、今年も各地から鮎漁解禁のニュースが聞こえてきました。
初夏から夏に旬を迎える鮎は、まさにこの季節の風物詩ともいえる存在です。
古くからその味わいや姿の美しさも相まって、高級魚として知られた鮎は、『古事記』や『日本書紀』にも登場するなど、日本人との関わりがとても深い魚でした。
古くは縄文時代の遺跡からも鮎の骨が発見されていますし、平安時代には、日本各地から朝廷へと鮎が献上されていました。
『延喜式』(927年)には、「煮塩年魚」「塩漬年魚」「押年魚」「火乾年魚」(年魚は鮎のこと)など、鮎を加工した食品の名前がたくさん登場しており、当時から珍重されていた様子がうかがえます。
一年で成長することから縁起の良い魚とされ、宮中の正月行事の一つで長寿を願って行われる「歯固めの儀式」においても、「押鮎」が用いられました。
庶民の文化が栄え、料理のバリエーションも増えた江戸時代には、鮎のなます、刺身、寿司、汁、かまぼこ、うるかなど、多くの鮎料理が登場しました。
また、江戸時代には多摩川の鮎も有名になり、将軍も鮎漁に訪れるほどだったそう。
明治時代以降は鵜飼も行われ、屋形船から鵜飼の様子を見物するなど、多摩川は行楽の場として発展しました。
日本人に親しまれてきた鮎は、「鮎」「香魚」「年魚」など、多くの呼び名を持っています。
「香魚」の名は、鮎を口に入れた瞬間に広がる、キュウリやスイカのような独特な香気から。この香りは、鮎が川底の石についた藍藻や珪藻といった藻を食べて育つことで生まれます。そのため、藻の種類や生息環境によって左右され、育った川や地域、季節によっても変化するそう。
「年魚」というのは、鮎の命のサイクルが一年であることに由来します。春に海から川を遡上した稚鮎は、夏に若鮎となり、秋になると産卵のため下流に向かって移動。その頃の鮎を落ち鮎と呼びます。産卵後には、多くの鮎が命を終えるため、年魚と書くのです。
そのほかにも、「銀口魚」「細鱗魚」など、さまざまな名前を持つ鮎。人々に慕われてきた歴史が感じられます。
日本各地に鮎の産地がありますが、長良川や木曽川などの清流を多く抱える岐阜県は特に有名です。
県内では、1300年以上の歴史があるという鵜飼による鮎漁が行われており、その鮎は皇室や伊勢神宮にも奉納されるほどのおいしさで知られます。
鮎漁のシーズンには、竹などを組んだ仕掛けで鮎をとる「梁漁(やなりょう)」のための梁が設置され、観光客でも鮎のつかみ取りを体験したり、新鮮な鮎料理を味わったりすることができます。
夏の鮎は骨も柔らかいため、丸ごと塩焼きにして蓼酢で味わうのがおすすめです。鮎の香りや身の上品な旨みをしっかりと味わってみてください。
そんな岐阜県の郷土料理「鮎ぞうすい」は、内臓を抜いてから香ばしく素焼きにした鮎を、ご飯とだしでさっと煮たもの。
もともとは、漁の際に傷がついてしまった鮎をおいしく食べるために考え出された料理だといいます。今では、鮎料理のお店でコースの締めに出されることが多く、鮎の旨みたっぷりの胃に優しい一杯です。
春の稚鮎に、初夏の若鮎、秋の落ち鮎まで、時季ごとのおいしさで季節を色濃く伝えてくれるのが鮎の魅力。旬の味覚を味わいに出かけませんか。
清絢
食文化研究家
大阪府生まれ。新緑のまぶしい春から初夏、めったに降らない雪の日も好きです。季節が変わる匂いにワクワクします。著書は『日本を味わう366日の旬のもの図鑑』(淡交社)、『和食手帖』『ふるさとの食べもの』(ともに共著、思文閣出版)など。
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