こんにちは。気象予報士の今井明子です。
5月5日といえば、端午の節句。今では子どもの日として知られていますね。
ちょうどゴールデンウィークの真っただ中で、すがすがしい陽気に心が躍る日です。
しかし、端午の節句は子どもの日であると同時に、昔は「薬の日」とされていました。なぜこの日が薬の日になったのか。それは611年の5月5日に行われた行事に由来します。この日、推古天皇は奈良県の兎田野(うたの・現在の奈良県宇陀市)で鹿の若い角と薬草を採取する「薬狩り」を行ったという記録が『日本書紀』にあります。それ以降、薬狩りが宮中の恒例行事となって、5月5日も「薬の日」と定められたのだそうです。
そして、この日に採取した薬草は、錦の袋などに詰め、邪気を払うために薬玉として軒先や室内に吊り下げておく風習もありました。これが、時代とともにお祝い事で割るくす玉に代わったのです。端午の節句では、菖蒲の葉を湯船に入れた菖蒲湯につかる風習があります。菖蒲は薬草ですから、菖蒲湯は薬の日の風習の名残といえます。
さて、タイトルにもある「薬降る」という言葉は、5月5日の午の刻(正午)に降る雨のことを指します。ちょうど、この日のこの時刻に切った竹の節にたまったものが「神水」と呼ばれ、この水で薬をとくと薬効が高まると考えられてきました。それで「薬降る」なのですね。
ゴールデンウィークと雨はあまり結びつかない人が多いかもしれませんが、もちろんこの「薬降る」が指す雨は旧暦5月5日の雨。つまり、今の暦でいうと6月中旬ごろの、梅雨真っただ中の雨のことです。
じめじめとした雨が続くと、カビが生えたり、物が傷んだりしやすくなります。自然と健康を損ねやすくなるということで、この季節が薬と結びつけられ、邪気を払う行事が行われたのかもしれません。梅雨どきは雨で湿気が多いうえ、晴れると気温が大幅に上がって蒸し暑くなり、熱中症のリスクが高まります。健康に気を付けて過ごしたいですね。
今井明子
サイエンスライター・気象予報士
兵庫県出身、神奈川県在住。好きな季節はアウトドア・行楽シーズンまっさかりの初夏。大学時代はフィギュアスケート部に所属。鯉のいる池やレトロ建築をめぐって旅行・散歩するのが好き。
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