おはようございます、こんにちは。編集者の藤田華子です。
早いもので、6月も中旬ですね。梅雨の時期はどんよりとした気分になりがちな方も多いようですが、私は静かな雨の日が大好きです。雨の音に耳を傾けると、自然界の不規則なリズムが心地よい。それに、湿度の高い日は香りの成分が空気中に止まる時間が長いそうで、お香を焚くと長く香りを楽しめるとお香屋さんに聞きました。こんなことを考えると、雨の日もまた愉し、です。
それに幼い頃は、梅雨は特別なアイテムが登場する季節として盛り上がっていました。そう、「長靴」が履けるからです。
長靴の歴史について少し触れてみましょう。
19世紀イギリス、騎兵隊が脛を保護するために着用した革製の乗馬ブーツが紳士のあいだで人気を集め、技術が進歩して耐久性と防水性に優れたゴム製の長靴が登場しました。特に有名なのが、アーサー・ウェルズリー公が愛用したことから名付けられた「ウェリントン・ブーツ」です。現在でもイギリスでは、長靴は「ウェリントン・ブーツ」として親しまれています。
日本でその存在を知り、商いに結びつけたのが、東京日本橋の魚河岸で「小田原下駄」という下駄屋を営んでいた伊藤千代次さん。千代次さんは先代から下駄屋を継いだのち「水たまりでも歩きやすいものを」と、下駄の歯を高く調整した「板割り草履」という人気商品を発明しました。しかし千代次さんは商売人、次の手を打ちます。海外からゴム素材が日本に入ると、下駄屋を閉め、「伊藤ゴム」を創業して日本製の「長靴」作りを始めたのです。そうして売り出したのが、現代でも愛用者の多い黒いゴム長靴「白底付大長(半長)」。
大正時代に生まれ、令和のいまも愛される名品です。そこから長靴は広まり、ファッション要素を取り入れたものなどデザインも進化していきました。
梅雨の時期になると、そんな長靴の存在が一層身近に感じられるようになります。子どもたちがカラフルな長靴を履いて、雨上がりの水たまりを楽しげに飛び越えていく様子が可愛らしい。私が最初に自分の長靴を手に入れたのは、3歳のころでした。母が選んでくれた黄色い長靴は、雨の日の憂鬱な気分を一掃してくれ、雨の日が待ち遠しく感じられるほどだったことを覚えています。特に雨上がりの学校の帰り道、大きな水たまりを見つけてはバシャバシャと水しぶきを上げるのが楽しくて。まるで冒険家にでもなったような気分で、水たまりという未知の世界に挑んでいたのかもしれません。
雨の日にはお気に入りの長靴を履いて、外の世界に一歩踏み出してみてはいかがでしょう。新たな発見や小さな冒険があるかもしれません。
藤田華子
ライター・編集者
那須出身、東京在住。一年を通して「◯◯日和」を満喫することに幸せを感じますが、とくに服が軽い夏は気分がいいです。ふだんは本と将棋、銭湯と生き物を愛する編集者。ベリーダンサーのときは別の名です。
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